ノワール その25 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 考えさせろと言ってくれたところで、それがいつまでなのやらわからない。ジェシンの心配は今だというのに。足は自然に医院に向かう。昼過ぎのジョンの店を横目に、ジェシンは大股で通りを行き過ぎた。

 

 以前と違って少し周囲に目を配るようにして歩いている自分に気が付いた。探しているのだ、あの夜のチンピラたちのような奴らを。昼間にはいないか、と思いながらも、昼の方が歩いている女性が多いだろうとも思うから。

 

 特に、ジョンの店の周辺は簡易な食堂や道端で出す屋台も含めて飲食店が多い。ヨンハに言われて気が付いてみると、道の反対側の古い家並は取り壊されていっていた。すでに空き地のところも含めて整地が始まっている。作業員や重たげなトラックなどが出入りしている。だからその人数を頼んで屋台なども出店されていたのだ。これだけ見晴らしがよくなってから初めて気が付くなんて、とジェシンはしばし佇んでその光景を眺めた。

 

 更地になっている場所は白っぽく明るく見えた。出入りしているのは男ばかり。こんな光景が今、ソウルの街のあちこちで見られる。男の人口が多いのだ。地方からも仕事を求めて出てきて、工事現場の仕事にありついた人たちが多いだろう。飲食店、夜になれば酒を飲ませる店。そして女性が接待をする店。男女が偏ると、繁盛する店の種類も偏る。

 

 そして、人材派遣という名のブローカーが跋扈する。仕事をあっせんするのだ。右も左もわからない場所にきて、いきなり条件に合った仕事にありつけるわけではない。人が必要な使う側にとっても、欲しいだけの人数を集めてくれる組織があれば手数料を払っても頼みたいはずだ。荒っぽい男たちを扱うことになるこの手の仕事には、ブローカー側も強面を用意する。その上、強引にでも人を集めるため例えば金の前借などをさせて言うことを聞かせるようなこともする。どんどん大っぴらに言えないことをするようになる。

 

 今そうやって組織を膨らませているのがハ商会だ。

 

 ジョンの店などをライバル視していたぐらいの飲食店から始まったように思われているが、元は土方の派遣の元締めをしていた。戦乱であちこち空いた土地を買いあさり、水物と言われる飲食店を表に、集まる男たちを相手の飲む買う打つの商売を裏で始めて急成長

した。その表向きの飲食業と人材派遣業でやり手の会社社長として名士のようにふるまっているが、その裏の稼業のことを皆怖くて言えないだけだ。

 

 あの夜のチンピラたちのように、暴力と脅しが裏にはある。誰しも怖い。奴らは一人で来ることはない。必ず、複数人でやってくる。やり口は皆知っている。だから口をつぐむ。

 

 だが、戦乱が停戦という形で収まった今、ソウルを暴力を振るうものが支配する街にしようなど誰も思っていないだろう。今国を立て直そうとしているソンジュンの父だって、治安を守ろうとしているジェシンの父だってそうだ。ハ商会という存在は、彼らにとっては邪魔でしかないはずだ。だが、賢く立ち回って尻尾を出さない。捕まえられない、解体できない。

 

 だがそれでは困る。あの戦乱の時の真っ暗な街に戻すわけにはいかない。電気も点るだろうし、人も多くなるだろう、これから。だが、夜歩けないような、電気がともっていても暗がりを恐れて歩くようなそんな気持ちでしか暮らせない街にしたくない。今までそんなことは思わなかったのに、たった一人の女の子を助けたのがきっかけで、こんな思いを持つようになるなんて、自分でも信じられない。

 

 ただ、何をしていいかわからないし、何もできないのが自分という存在だともわかっているからもどかしくって、とにかく医院に向かう事しかできないのだ。今日は学校は休みの日。ユニは医院に、あの休診日でありながら勝手に患者が入っていき、休診日のくせにちゃんと医者が待機しているあの医院にいるはずなのだ。とにかく、顔を見て、彼女が今日も無事なのを確認したい。

 

 こんな人のために甲斐甲斐しく埃っぽい街を歩く羽目になるなんて、思ってもいなかった。

 

 

 

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