ノワール その24 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 ジェシンだって知っている。捜索願が出されない限り、人探しを警察がすることはない。そして今回、騙されたのかもしれないが、本人たちが自分でその働き先を選んだというところがネックだ。

 

 ジェシンにとって、店のウエイトレスは顔見知り程度のものだ。別に店に入り浸っていたからと言って、ジェシンは客だったわけではない。ただ、居場所の一つだったに過ぎない。それこそ金を払ったこともない。店のオーナーの坊ちゃんであるヨンハの友人。時々バックヤードでぼんやりしているどこぞの子。そういう扱いだったろう。かわいそうだとは思うが、どうしてやることもできないと諦めることだってすぐだ。

 

 だが今回口を出したのは、ユニに関わってきては困る、という理由一点のせいだ。

 

 キム家と敷地を一にする家族に起こったことを案じ、ソンジュンがわざわざジェシンに進言しに来たのは、決して用心深すぎるからではないだろう。その笑い声を立てていた男の口ぶりから、若い女の子ならだれでも、というニュアンスを嗅ぎ取ったのだろう。もし、誰かを紹介することで、その家族の娘が連れて行かれる原因となった父親の借金が猶予されるとか、なにがしか貰えたりして味を占めてしまったら、すぐ近くにいる若い女の子・・・ユニに食指が動かないわけはない。

 

 『ユニさんは、ユンシクととても似ています。ご存じでしょう、ムン先輩が夜目に間違えたぐらいですから。ユンシクは、転校してきてすぐに、密かに注目を集めました。今地方から入ってくる子は多いんです。転校生は珍しくないんです。けれど注目された。それはひとえにあの容姿のせいです。少し背も伸びたのでましになりましたが、入ってきたときは、一部の口の悪い同級生が、少女のようだとからかったぐらいでした。お前が女の子ならよかった、綺麗だろうな、などとまじめにいう者もいました。美少年というより美少女、と言った方がいい、なんていう先生もいました。それぐらい整った容姿に注目されたんです。』

 

 そう。ユニはユンシクの姉。よく似ている姉弟。そして、ユニは女性だ。可憐さは高校生になろうとしている今、しゃれっ気も何もない御下げ髪に生成りのあっさりとしたブラウス、ボックス型のスカートか黒のズボン姿をしてズックの重そうな肩掛けカバンを持って歩いていても、どこか目を引くようになっている。ジェシンにはそう見える。だから、気になる。昼日中でも、あの夜のようによからぬチンピラに目を付けられるのではないか、と。

 

 あの夜。出会ってなければ。真っ暗な、ぼろ屋が連なる穢い路地で浮かび上がったあの子の顔。学校帰りに見つけた学生としての彼女の姿。ジェシンにはユニが見えるのだ見つけるのだ。暗がりの中でも、雑踏の中でも。見つけてしまうのだ。

 

 美しいから、かもしれない。けれど違うと分かっている。目が吸い寄せられたのだから、どうしてもどうしてもそこに目が行ってしまうのだから。どうしようもなく、彼女が気になるのだから。

 

 降参だ、と思った。どうしたってあのキム・ユニという少女に関わらざるを得ないのだ。いやいやではない。自分が関わっていないと気が済まない。その感情を、ジェシンは知っている。知っているけれど、口に出したくない。ただ、ユニを危ない目に合わせたくなかった。赤の他人、何度か一緒に歩いただけの相手なのに。

 

 大事で仕方がない。

 

 

 「・・・捜索願を家族なり何なりが出さなければ、探せない。大体において、別に家を出たわけではないんじゃないか。それも調べていないのか。」

 

 ジェシンはそこまではヨンハに聞いていない。父親にそう指摘されても、ジェシンはただの高校生で、ヨンハの父の持つ店の従業員のあれこれを心配する立場にない。だが、父はジェシンにそう言ったものの、ハ商会か、と呟いた。

 

 「・・・何度も煮え湯を飲まされている。警察の中にこちらの動きを漏らしている馬鹿がいるのはわかってるのだが、誰かが掴めない・・・検挙に動けばもぬけの殻だ。それに行方不明の訴えが今多すぎるほどで手が回らない・・・戦乱時から行方がしれないという訴えが今頃出てきているからな。」

 

 ちょっと考えさせろ、と珍しくジェシンの父は穏やかにジェシンに告げた。

 

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