㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。
ご注意ください。
あれからジェシンは数度ユニと一緒にバス通りを歩いている。わざわざ日曜日に医院まで行き、外で待ち、ユニの家の近くまで。一度は弟ユンシクとも遭遇した。ジェシンを見て目を瞠るユンシクにユニを託し、そこから回れ右して帰った日、顔がほてったのを覚えている。
気になって仕方がないのだ、としか言いようがない。ユニや、医師夫婦を疑っているわけではない。ちゃんと日のあるうちに帰宅しているだろうしさせているだろう、ちゃんとスラム化した路地ではなく大通りを通っているだろう。それぐらいは信用している。あれだけ周りから念を入れられて、心配をかける女の子ではないだろうし、大人としてきちんとしているようだった医師夫婦がユニを気遣わないわけはないのだ。だが、ジェシンは気になる。どこを歩いていても、日があるうちでも、危ない目にあの子があっていないか、と。
心配はヨンハの話を聞いて膨れ上がった。学校帰りにジョンの店に直行したのはそのためだ。聞かなくてはならなかった。テスト前だから下校時間はいつもより早かった。けれど夕暮れ過ぎには開店する店の準備で忙しい時間に邪魔することになってしまったが、ジョンは快くジェシンを出迎えてくれた。
「雑用はみんなしてくれるし、やることなんか決まってるからさ。」
ジェシンが店前に着いたとき、入り口の扉をボーイ頭のシフが水拭きしていた。傍には箒とゴミを入れた袋が置いてある。裏口から入ると、むわりと食い物を作る匂いが流れてきた。食い物屋ではないが、酒の肴になるようなものは出すのだ。米兵のために鶏肉を揚げたものや手に入りにくいパンにベーコンと呼ばれる豚肉の加工品と目玉焼きとチーズを挟んだものなどは、多分本国のものとは比べ物にならないにしても、兵舎でも食べられないものらしくて、喜ばれる。あとはできるものしか出せないけどね、と厨房を任されている親父は笑って教えてくれた。戦前は食堂をやっていたのだそうだ。焼け出されて困っていたところに、その食堂からよく出前を取っていたヨンハの父から仕事を貰って助かったと言っていた。グラスを磨いている給仕の少年。テーブルの上を拭いて回っている女の子。きびきびと働いているのはジョンが采配を振るっているからだろう。
小さな狭い事務室で、ジェシンは率直にヨンハから聞いた話について尋ねた。するとジョンは眉を顰め、そうなんだ、とこぼす。
「まだ引っさらわれるまではいってないけど、帰り道で声を掛けられて怖かった、とかが何回かあって。他の店への引き抜きらしいんだけどさ。うちよりも金が稼げるって言われたけど、って言いに来てくれたんだよ。他にも、贔屓客を連れて移ってくれたらその分ボーナスをあげるから、なんて話も聞かされたらしい。うさん臭くて怖い、って話でさ。でも全員を一人一人送って帰ることもできなくて。」
声を掛けてくるのはジョンと同じぐらいの年齢から下ぐらいの数人らしく、女の子たちの名前も知っているところが余計に怖いのだという。ただ、女の子たちも生活のために辞めることもできないから、どうしよう、とジョンに報告が上がってきたのだそうだ。
「ちょっと調べたら、うちの子たちだけじゃないんだよ。その辺りを普通に歩いている女の子にも声を掛けている奴らがいるらしい。それに何人か引っかかったって聞いた。働き先を探してたんだろうね、その子たちは。あと嫌な話が・・・。」
何だよ、とジェシンが聞くと、ジョンは声を押さえた。
「大学病院に何人か搬送されたらしいんだけど、薬漬けの女の子・・・っていっても俺ぐらいの年の子かな・・・がちらほら出てる。みんな・・・言ってみたら売春する店にいた子たちで、他に病気も貰ってて・・・精神病棟みたいなところに放り込まれてるって話なんだ。治療受けられてるんだろうか・・・。多分その代わりになる子で、若さを売りにしようとしてるんだろうって見てる。」
ジェシンは無言で立ち上がり、店を出た。