ノワール その19 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 試験の前になれば流石にジェシンも真面目に準備をした。出欠はユニを送って帰った日から手のひらを返したように改善し、少しばかり校内で噂になったとヨンハから聞いた。人のこと良く見てるよなあ、と、不平を言うと、自分が目立つってわかってないの、とあきれたような声が返ってきた。

 

 「目立つことはしてねえ。殴り合いだってしたことねえだろうが。」

 

 「物騒なこと言うなよ~。そう言う意味じゃなくって、お前入学時のテスト一位だったろ?」

 

 「その後だって別に点数は落としてねえ。」

 

 「でも生活態度で成績落としてたじゃないか。」

 

 まじめになったら本当にすべて一位に返り咲くんじゃないかって注目の的なんだって、というヨンハに、ばかばかしい、とジェシンはそっぽを向いた。

 

 「手を動かせよ、数学、ここでしか教えねえぞ。」

 

 「待って!待って!このページあと二問!」

 

 ヨンハは教科によって得意不得意の差がある。数学は不得意ではないが好きではないので点数が伸びないのだ、と泣きついてきた。ノートを広げさせてみると、教科書でも副読本として使っている参考書でも、問題を全部解いていない。全部やれ、とジェシンにあっさりと言われて泣き泣きやっているところだ。絶対に家に帰って一人になったらやらないから!と見張りを頼まれたみたいなもので、時折教えてやることはあるが、総じて自分で解いているので、何でやらねえ、と思っているのが顔に出ているようだった。

 

 「俺はコロが全部解いてることの方が不思議だよ!」

 

 勝手にジェシンの表情から解釈して勝手に答えたヨンハに、変態め、とにらみつけると、

 

 「たまに夜遊びもしてるのにさあ、それにちょっと前まで学校を自主休校することもあったのにさあ、出来てることが腹立つし、いつやってたんだよ?」

 

 とぶつぶつとまくし立てるので、静かにしろ、と額をはじいてやった。

 

 「そんなもの、ここまでやったなあ、ってところまですぐに解いて置いたらいいだろうが。自分で出来ないものだってわかるし。教科書の問題なら授業中にやってるときもあるし。」

 

 「賢い奴のやり方はまねできない・・・。」

 

 「溜めなきゃいいんだよ。」

 

 これは兄の教えだった。兄ヨンシンはジェシンの思い出の中でも大層真面目な学生の姿を残していた。家に帰ればすぐに机の前に座り教科書を開いていた背中がよみがえる。年の離れたジェシンが小学生になる時、家に帰ればすぐに課題をすること、明日習うところを先に読んでおくこと、習ったところの様々な問題に取り組んでおくこと、などを優しく指導してくれた。ジェシンは自分でも勤勉な性格をしているとは思っていないが、兄の言う通りに勉強してきて困ったことがない、という経験が今も生きている。結局後回しにすると、やることが増えるだけなのだ、という事も、今までの試験前の級友たちの慌てぶりを見ていて理解できた。兄のやり方は、この世のすべてではないが、悪い方法ではないのだ。兄は自信がまじめだから、毎日きちんとやる、という事が苦ではないし、自分のやり方として選択したのだろうが、ジェシンも勉学に関しては、兄のやり方を倣って真面目でありたいと思ってきた。

 

 そしてそれが、ジェシンの中に遺る兄だからだ。

 

 両親よりも一緒に生きた時間は短い。年が離れていたから、学校に行っている兄と一日べったり一緒に居られたわけでもない。家族の中で一番残してもらった思い出は少ないだろう。けれど兄は、何かを教える、という点においてはその対象がジェシンにだけだった。だから兄が教えてくれたことは決して捨てない。

 

 押しつけがましい人じゃなかったから、教えてくれた、と言うより寄り添ってくれたと言った方が正しい。けれど、それが今のジェシンの財産となって、成績となって表れている。

 

 「あ~あ。テストが終わるまで遊べないなあ。」

 

 ノルマのページまで解いて、ヨンハが片付けながらぼやく。

 

 「最近、コロも来ないし、俺もちょっと河岸を替えようかなあ。」

 

 「ジョンのところだと親父さんが安心なんじゃないか?」

 

 「そうなんだけど、店の客層もちょっと変わってきたしさ。英語も家庭教師をつけてもらおうかなって思って。」

 

 それに、とカバンを持って立ちあがったヨンハは顔を曇らせた。

 

 「店の女の子を早く帰すのに、閉店時間を早めたんだよ、ジョンが。何かあったよねあれは。治安悪いのかな、あのあたり。」

 

 まあ元からあんまりよくないけどね、とヨンハは笑うが、ジェシンは笑えなかった。

 

 ジョンの店から、ユニの働く医院は、言うほど離れてはいないのだ。

 

 

 

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