ノワール その18 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 かわいい、と思った。可愛いってなんだ、とすぐに頭に浮かんだが、頭一つ下にある、少し見上げて来るその耳が赤らんでいるのを見て、また可愛い、と思ってしまった。

 

 「あの・・・。」

 

 ユニがまた話しかけてきた。ひっと肋骨の下がけいれんを起こして変な息・・・つまりしゃっくりが飛び出しそうになったのを必死にごまかして、なんだ、と答えたが、若干ひっくり返った変な声になってしまった。

 

 「私・・・もう夜は・・・気を付けて外を歩かないようにします。だから、コロ先輩も夜は歩かないでください・・・。」

 

 ジェシンはユニを見下ろした。その時彼女はうつむいていたが、一拍置いてジェシンを見上げてきた。何を言っているんだ、とは思ったが、とりあえず、なんでだ、と聞き返してみた。

 

 「だって、高校生ですよね。あ・・・働いておられるとか・・・。」

 

 「・・・それはない・・・。」

 

 嘘はつけない。本当に似たような年齢で働いている人たちを知っているから。生活のためがほとんど、そして将来の自分のため。自分で金を用意しないと、勉強すらできない境遇だからだ。ジェシンはどうだ。夜出歩く理由を尋ねられたら、何も答えられない。ただ、心のやり場を求めて、なんて傲慢だ。改めてそう思った。

 

 ジョンの店に集うものは、例えば客なら、彼らは自分が稼いだ金を使いに来ている。自分が稼いだ金で、一日の憂さを晴らすのか、ただ酒を飲みに来ているのか、仕事以外の会話や刺激を求めているのかは知らないが、何しろ金の使いどころを誰に責められる必要もない人たちだ。自分が働いて掴んだ金だからだ。例えば従業員なら、彼らは働く必要があってその仕事をしている。ジョンはヨンハの父に拾われたと聞いているが、働く場所を得てその仕事に適性を見出してやりがいをもって働いているだろう。ボーイ頭の青年もジョンに拾われた口だが、仕事にありつけたことに感謝して役に立とうと立ち働いている。家族のために夜の店でウエイトレスをする女の子、自分のこれからの勉強に必要なお金を稼ごうとする女の子、皆理由がある。この仕事は、若い女性が出来る仕事の中では高額な報酬が望めるものだ。看護師や教師など、女性でもできる仕事は今までもあるが、それらは資格がいる。手っ取り早く稼げる仕事はどうしても夜の接客業になってしまう。それでもジョンの店はまだましなのだ。客の相手はするが、いわゆる売春は斡旋していない。あくまで店の中での接客だ。

 

 ジョンの店に居るものの中で、ヨンハとジェシンは異質なのだ。使う金は親のもの。ヨンハは社会勉強と女の子に知り合うため、と豪語しているが、ジェシンには言うべき理由すらない。何のために夜家に戻らないのか、と問われて、答えられるはっきりとしたものなど何もない。

 

 けれど、夜はジェシンを少しだけ許容し、少しだけ訳の分からない鬱屈を減らしてくれた。それだけは確かだ。だが、言えるほどの明確な理由などなく、ましてや働いているなどという嘘は、働いている人たちに対して失礼なので言えはしない。

 

 「ああ・・・気を付ける。」

 

 トーンの落ちたジェシンの声に、ユニは少し怯えた顔をした。

 

 「ごめんなさい・・・私余計なことを言いました・・・。」

 

 落ち込んだ小さな声に、ジェシンはいいや、と首を振った。

 

 「君の言う通りではあるんだ。分かってる。夜遅く家に帰ると、母が心配している。」

 

 でも、とジェシンは言いよどんだ。でも、何だか家は息苦しいんだ、今でも、そう言いたいが、それは言ってはならない気がした。ユニにも呆れられるだろうし、それに母の悲しむ顔が浮かんだ。

 

 「・・・まあ、なるべくちゃんと帰るようにする。」

 

 そう返すしかなかった。

 

 「私は、日曜日に医院でカルテとかの清書や整理をするんです。だから遅くなることはありません。」

 

 ふうん、とジェシンは頷いた。日曜日、日曜日ねえ。

 

 外出する理由が出来たぜ。

 

 

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