ノワール その17 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 ジェシンとユニは黙りこくって大通りをしばらく進んだ。ジェシンの数歩後をユニがとぼとぼとついていく形で。ジェシンは何をしゃべっていいかわからなかったので。何しろ、あの路地のスラムを抜けてはならないという忠告は、医師夫婦の前でしてしまったものだから、ジェシンには言うべき用事がもうなかった。

 

 沈黙に耐えられなかったのはユニの方だった。

 

 「あ、あの!ムン先輩・・・。」

 

 呼びかけは勢い良かったのに、名を呼ぶ段になって恥ずかしくなったのか、尻つぼみになったユニに、ジェシンは思わず笑ってしまった。

 

 「・・・無理に先輩呼ばわりしなくっていいぜ・・・。」

 

 少し振り向き加減で言うと、でも、でも、とユニは距離を縮めてきた。

 

 「ユンシクのお友達の先輩ですもの、先輩だわ・・・。」

 

 「まあ何でもいいけどよ。ムンでもジェシンでもコロでもよ・・・。」

 

 ユニはしばらく考えて、コロ先輩、と小さな声で呼びかけてきた。おう、と返事をしてやると、安心したように今度は普通の声量でコロ先輩、と言い直してきた。

 

 「おう、だから何だよ。」

 

 あの、と言い淀み、それからユニは素早く歩いてジェシンの前に回り込んだ。驚いて足を止めたジェシンの前で、ユニの頭が勢いよく下がる。

 

 「助けていただいたのに、ろくに御礼も言ってなかったし・・・。ありがとうございました。」

 

 「なんだよ・・・別にもういいだろ・・・。」

 

 急に礼を言われると照れ臭くなって、ジェシンはユニをかわして歩き出した。帰るぞ、と急かして。ユニは頭を上げるとジェシンを追い、急いで隣に並んだ。

 

 「気になってたんです、ちゃんとお礼を言わなかったって。それに・・・心配してくれてありがとうございます。」

 

 連続して放たれる言葉に、ジェシンはそっぽを向いた。慣れてない。礼を言われることなんぞ、やったことねえよな、俺。

 

 「私・・・ちゃんとこの道で帰りますから。コロ先輩もお家に帰らなきゃ・・・。」

 

 続けて出た言葉に、送る、とジェシンは短く答えた。正直面白くない。ここでお前を放って帰れと言うのか。俺はそんなことはしない。

 

 「でも・・・お家は方向違いでしょ・・・?」

 

 小さな声で言うユニに、ジェシンはようやく目を向けた。見えるのはつむじ。今日は帽子を被っていないから、綺麗に編まれた御下げ髪のおかげで白いわけ目がくっきりと見えていた。

 

 「近所とは言わねえが、俺はソウル育ちだ。距離ぐらいわかる。心配すんな・・・それに、この間お前の弟を送ってきてたイ・ソンジュンは俺と同じエリアに住んでる。誰でもできることだ。」

 

 ジェシンが口をつぐむと、暫くユニも黙って歩いた。大通りは左へカーブしていく。そこをまたまっすぐに歩いていくと、路地を抜けて来る道と交わる。確かにショートカットできれば便利だろうが、安全と天秤にはかけられない。

 

 「えっと・・・コロ先輩が行っている高校・・・弟も行きたいんです。」

 

 「ああ。イ・ソンジュンも来るだろうしな。」

 

 ジェシンの通う高校は、中学で成績の上位のものしか行けない。ソウルの中ではトップの成績を誇る。イ・ソンジュンは神童と呼ばれるほどの秀才だ。当然来るだろう。ちなみに、ジェシンの兄ヨンシンがトップで入りトップで卒業したのも同じ高校だ。

 

 「じゃあ、君の弟は頭いいんだな。」

 

 「悪い方じゃないと思います。でもイ・ソンジュンさんには歯が立たないんですって。」

 

 「あいつと比べたらみんな馬鹿だぜ。相手が悪い。」

 

 明るく言ったユニに明るく返し、ようやく二人は声を上げて笑った。肩のこわばりがほぐれた気がした。

 

 「君の方が先に高校生になるだろうが。」

 

 「はい。○○女子高に行くことが決まってます。」

 

 へえ、とジェシンは感心した。声も出た。

 

 「君だって優秀じゃないか。」

 

 「そ・・・そうなのかな・・・ソウルの学校のレベルはちょっとわからないの・・・。」

 

 「あの女子高は、少し前まで学校の先生を目指す頭のいい女の子しか行けない学校だったんだ。今だって女子高の中では一番だぜ。」

 

 肩から下げたズックのカバンを抱きしめて照れるユニはかわいらしかった。褒められた子供の様に喜ぶさまに、ジェシンは目を細めた。

 

 

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