ノワール その9 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 ジェシンがかいつまんで話した昨夜の出来事について、ソンジュンは納得の反応を示し、ユンシクは首をかしげていた。『クスリ』の意味するところが分かるかわからないかの違いだ。

 

 「姉が昨夜貰って来たのは、漢方薬ですよ?」

 

 「そんなこと、紙袋の外からじゃわからねえだろうが。」

 

 「それに薬は転売するととても高価になるから、正規の市場になかなか量が回らないので、こちらも値が吊り上がる、と父が対策を指示しているみたいな記事が新聞に出ていました。」

 

 「どっちにしろ、医者から出てきてその手に紙袋があったら薬だと思ったんだろ。目当ての『クスリ』じゃなくても金にはなるんだよ。」

 

 するとユンシクはほっと肩を落とした。

 

 「・・・女の子だから襲われたわけじゃないんですね・・・。」

 

 しばらく黙ったジェシンとソンジュンだったが、我に返ると、ユンシクの肩を強く掴んだ。

 

 「どういう意味で言ってるか知らねえが、あのまま奴らにいいように殴られたりしたら、女だってすぐにばれたぜ。あの服でカモフラージュしてたつもりかもしれねえが、ちっこくて細っこい奴なんか、女でも男でも力づくでどうにかなるって誰でも思うってんだ。自衛しろ自衛!」

 

 「どういう意味かは分かってます・・・。」

 

 揺さぶられながら言うユンシクの言葉に、今度はぴたりと手を止めたジェシン。まだ中学生の少年の瞳は、真っ暗だった。

 

 「だから僕たち一家はソウルに逃げてきたんです・・・。」

 

 

 お母さんの働き口がソウルだったからじゃないのか、というソンジュンに、それもある、とユンシクはうつむいた。表向きのキム家のソウルへの転居の理由はそうだったし、実際母親のミシンが使えるという洋裁の腕は、今引っ張りだこの技術だった。おかげで一家三人食べていけるし住まう家も借りることが出来ている。贅沢はできないが、子供二人はちゃんと学校へも通う事が出来ていた。

 

 しかし、住み慣れた故郷でも、探せば働き口はあったのだ。あちこちに自国軍、連合軍の兵が駐留している。洋裁店はどこでも大繁盛していた。実際ユンシクとユニの母は、地元安東の工場で、男性のズボンを縫う仕事にありついていた。

 

 しかし地方ゆえ賃金は安い。家は持ち家だったが、貯蓄などは心もとなかった上に、ユンシクの薬代は高騰し続けていた。借金まではいかなかったが、つましくつましく暮らすしかなく、そしてそういう家庭には魔の手が伸びる。

 

 いい働き口がある。

 

 まだ30代の母にくる話は、基本いわゆる『女給』としての働き口だった。兵たちに飲み食いさせ、ダンスの相手をさせる。進んでそこで働く女性もいた。自国を厭い、外国の華やかさに憧れて、アメリカ兵と恋仲になり、あわよくば妻として共に海を渡ることを夢見るのだ。当然売春も横行していた。ユニ達はどちらかというと死んだ父親似で、瞳の印象的な美しい子どもたちだったが、母親だってうりざね顔の少し薄幸そうにみえる女らしい容貌だったから、誘いの手が伸びるのは早かった。工場の帰り道、買い物の最中、最期は家にまで来た。親戚の一人など、金になるんだから、と一緒になって勧めて来るほどになって、母親は決心したのだ。その親戚がユニを見て、『この子も二、三年したら働けるねえ』などと舌なめずりしているような顔をしたのも決め手だった。母をかばい、送り出してくれたのは、亡き父が助けた母の両親と長兄だった。逃げろ、と長兄などは言った。土地家屋は長兄に管理を任せ、とにかく有り金だけもって、長兄が役所の仕事で知り合ったソウルの知人に家の手配だけ頼んで。幸い母の仕事はすぐに見つかり、学校にも春からすぐに編入できた。持ってきた粗末な服を、母は丁寧に作り直し、通学服に変えてくれた。働き先で貰えるあまり布や端切れ、糸で小さなものは作ってくれる。ハンカチ、小物入れ、筆入れもそろった。ユンシクの病気以外は、父の死以来、本当に落ち着いて生活できていた。

 

 

 「姉は・・・ソウルにきて、どんどん綺麗になりました・・・。中学で知り合うお友達も都会の人だし、母の代わりに買い物に行って出歩くし、僕の通院も姉任せだし。しっかりすると顔まで大人びて。だから、また、姉を『女給』にしようとする人たちに見つかったのかと思ったんです・・・。」

 

 なかなかに生臭い話が出てきて、流石にジェシンも驚いたし、ソンジュンなどは口をあんぐりと開けていた。

 

 

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