ノワール その6 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 「で、お前の喧嘩の原因もクスリなんじゃねえの?」

 

 煙草を新しいのに変えながら、ジョンは聞いてきた。

 

 「みたいだな。医者の手伝いをして家族のための薬を貰ったガキだった。っていっても俺よりちょっと下ぐらい・・・中学生だと思うけど。」

 

 「じゃ、あいつらが欲しいクスリじゃないわけだ。」

 

 「多分。」

 

 「睡眠薬。鎮痛剤。アスピリンなんか闇でどれだけ高値になるか・・・。それから手術用の麻薬な。最近は日本からヒロポンってやつが流れて来るらしい。この辺りは気分良くなるための即効性が高いからよく売れるし値段も吊り上がる。普通の薬は、単に足りないから売れるけど、それほど高値にはならない。」

 

 「よく知ってるな。」

 

 「店の子にされたら困るから。客でさ、こっそり女の子たちに勧めるやつもいるんだ。だから一応教育してる。自分の頭をおかしくさせたくなけりゃ、医者が出す以外の薬はやっちゃダメだってさ。」

 

 で、とジョンは笑った。

 

 「ジェシンはそのガキが気になるわけだ。」

 

 「きっ・・・気になるなんて感じじゃねえよ・・・。ただあの年のガキを夜遅くまで働かすなんてなんて医者だと思っただけだ。」

 

 「そういうお前の真っ当なところは偉いよ。」

 

 からかうわけでもなくジョンはそう言った。一時は無法地帯と化したソウルを知っている男だ。その時何をしていたかは知らない。だが、ヨンハの父に拾われるまで、ジェシンに昨夜殴り飛ばされたチンピラたちと同じように、親もなく家もなく荒れたソウルを彷徨していたのだけは間違いない。ヨンハやジェシンとはそこが違うのだ。ジェシンはあの恐ろしい戦闘時でも、守られていた。少なくとも、安全なところにかくまうだけの力を、ジェシンの父はもっていたという事だ。そしてジェシンの父も、前面に出て戦う地位ではなかった。後方指揮、警察の高官として、治安を守る指揮をとっていたから、逆に誰よりも安全が約束されていた。

 

 ジェシンは子供時代を守られていたのだ。教育が途切れることもなく、生活は大人が守ってくれ、そして子供としての生活をさせてもらえた。ジョンやチンピラたちは、途中で放り出された者たちだ。自分の空腹を、雨風から身を守ることを、安全を、自分でどうにかしなければならなかった。朝も昼も夜も関係ない。食えるものがあると聞けば、夜中だって這いずってそこまで行く。寝る場所があれば、そこを守るために一日寝転がっている。時間など関係なかったのだ。

 

 ジョンはジェシンを非難したいわけではない。だが、少し暗い瞳をいせるそんな話のやりとりの時、ジェシンは少しだけ居心地が悪くなる。だが、口には出さない。どうしようもないことだとお互いにわかっている。ジェシンが言えば嫌みになるし、ジョンが言えば僻みになる。

 

 「お前が喧嘩したって当たりの医者ならあの先生だろ。」

 

 気を取り直したようにジョンが出した名前は、その通りだった。

 

 「あの先生は豪傑だからさ。時間なんか適当なんだよ。遅くまで患者を診るし。そのガキも帰るに帰れなかったんじゃねえの。」

 

 ヨンハと似たようなことを言うジョンに、俺は知らねえんだよ、とジェシンは首を振った。

 

 「まあ。気になるんならしばらく見に行って見たらいい。どうせ今日も学校さぼったんだろ。」

 

 「まあ・・・。」

 

 「でも学校は行けよ。行けるんだから、お前は・・・。」

 

 淡々と言うジョンに、こればかりはジェシンも素直に頷いた。

 

 

 

 三日ぶりに学校に登校したユニは、クラスメートに休んだ間のノートを写させてもらっていた。休憩時間も惜しんで作業し、皆に手を振って急いで家路につく。成績は良いから、そのまま女子高に進めることになっていた。少し世間が混乱している今、入学用の試験は中学校での試験と成績で判断され、ユニは希望の女子高に進むことが決まっていた。それでも出席日数が足りなければ素行の問題で取り消されるかもしれない、となるべく休みたくはない。ユンシクの体のことをよく知っている担任は大丈夫だと言ってくれているが、それでもちゃんと学校へは通いたかった。

 

 途中の小さな店で、ねぎを買って家に急ぐ。明るい間はスラム街を横切っても人通りがあるから大丈夫なのだ。突っ切らなければ家にたどり着かない。回り道をしてもいいが、かなり遠くなるのだ。だからユニは急いで帰る。

 

 昨夜のことは身に染みて怖かった。だから、明るいうちにあの路地は通り過ぎなければならないのだ。

 

 

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