ノワール その5 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 耳が早くないとやっていけねえんだよ、とジョンは笑い、昨夜スラムあたりでチンピラが痛い目に遭った、という話を屋台の親父が教えてくれたと言った。

 

 「お前が何であいつらと喧嘩したのかは知らないけどさ、あいつらはちょっと最近ここらの鼻つまみ者だったんだ。金回りが良くなって身なりが派手になってきて、うちの店にも出入りしようとしてたんだけど、満席だって追い返し続けてたんだよ。」

 

 「兄貴は何でそいつらと知り合いなんだよ。」

 

 「そりゃ、この店を俺が任されたあたりはさ、あいつらまだ物乞いのガキで、仕事やらせてたから、時々。店回りのゴミ拾い、水たまりの水の掻きだし、女の子たちの靴磨き・・・。」

 

 「中の仕事・・・厨房の手伝いとか店の中の掃除とかはさせなかったのか?」

 

 「役に立ちそうだったらしたかもな。そういう仕事をさせてて、見込みがありそうな真面目な奴は正式に雇うさ。例えばシフとか。」

 

 その名にはジェシンも納得した。給仕のチーフになった青年だ。細面の色白の青年だが、確かに半年ほど前までは皿洗いでもお運びでも掃除でも何でもしていた。今は女の子が多い給仕の指揮をとってホールを回しているが、自分も良く動く。汚れた食器を盆に山ほど載せて歩き回る姿はよく見るのだ。

 

 「シフも最初は浮浪児・・・よりはだいぶ年が上だな、親を亡くして学校にも行けず家もない、みたいなやつで、食い物と金をやる代わりに何でもしてみろ、って言ったら毎日早朝から店の周りを掃除して回ってた。壁も箒ではたいてよ、正直ゲロまで綺麗に片付けていたから、すぐに皿洗いと店内の掃除に雇った。自分で仕事を見つけて体を動かして働く奴はなかなかいない。あいつらはさ・・・。」

 

 シフとの違いを比べているのか、ジョンは天井を睨みながら腕を組んだ。くわえたばこも一緒に上を向いている。

 

 「手を抜く。目立つところだけ綺麗にしたら、その数十センチ先のごみは拾わねえ。毎回『どこしますか』って聞く。10歳のガキじゃねえんだ。最低でも昨日したことは進んでやるべきだろ?女の子の店の中ではく靴を磨かせたら、磨ききらないから靴下に黒く縁取りの線を作って文句が出た。適当にクリームを塗って伸ばすだけしかしないから。やり方を知らないからって最初に教えて、失敗するのは仕方がなくても、あいつらは違うんだ。適当にするんだよ。性根が怠けものなんだ。」

 

 腕を組んだまま顔もしかめている。よほど手を焼いたのだろう。

 

 「もういい、って追い払って、あいつらのことなんか忘れてたら、最近またウロチョロするようになったんだ。偉く金回りよさそうな格好で。あいつらお前と年変わらないだろ?いっぱしのチンピラみたいな格好して肩で風切って、店の外にいた俺に、『ヒョン!』なんて声かけるんだぜ。お前らにそう呼ばれる筋合いないっていうんだ。」

 

 「結構付き合い長いんだな。」

 

 「付き合いなんて気色悪い事言うなよ・・・。でさ、俺たちもとうとうこの店の客になれそうだから、なんて怖いこと言うから、あいつらなんか客にしたら店の品位が下がるじゃないか。だからちょいと動向をチェックしてた。まだあんまりちゃんと調べ切れてなかったんだけど、多分ハ一家の仕事をしてたんじゃねえかなってところまでは分かったんだ。だから用心してたし、顔の広い屋台の親父たちに頼んでたんだ。」

 

 「ハ一家、って・・・。」

 

 「おう。お前の同級生の親父だよ。」

 

 最近闇市で幅を利かせだした男の名が出た。ヨンハの父親は既に闇市から手を引き、商売を正規のルートで広げようと業種を広げたり縮小したりと忙しいと聞く。今から発展する商材に鼻が利かなければただの博打だが、ヨンハの父親は非常に経営者として鋭敏な男で、すでに食品と繊維関係は会社として大きくなり始めていた。そのヨンハの父が抜けた闇市の利権を拾うようにして拡大したのがハという男だった。そして皮肉なことに、ヨンハと同級生の息子がいた。だからジェシンにとっても同級生だ。

 

 「あの一家のうわさは聞いてるだろ。だからあいつらはたぶん、クスリに関わってハ一家に優遇されたんじゃないか、って言われてた。そこそこ話があったからさ、医者から睡眠薬が盗まれたり、鎮痛剤を貰った患者からそれが強奪されたりって。そうやって手にいれたクスリを手土産にハ一家の端くれに収まってるんじゃないかって噂があいつらにはあったんだよ。」

 

 ふうん、とジェシンは聞いていた。生臭い話過ぎてジェシンにはいまいちぴんと来ない。それにハ一家の息子の顔もその稼業にどうもつながらないのだ。あのスンとして冷たい能面のような顔。

 

 

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