ノワール ~ジェシン~ | それからの成均館

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『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 血しぶきが抜けた歯とともに飛んだ。。

 

 一発で一人は地に沈んだ。頭も打っただろう。もんどりうって転がった後、動きもしない。その派手な一撃に唖然とした間を使って、ジェシンは服の裾を割いた。びりびりと音がする。割いた布切れをぐるぐると右こぶしに巻き付け端を挟み込むと親指を握りこんで拳を固めた。腰を落とす。あと四人。真ん中には小柄な少年が一人。

 

 男の一人が紙袋を放り投げた。あ、と少年が声を上げた。そのすきに男が躍りかかってくる。ジェシンは一歩引くと、その浮足立った足に蹴りを入れた。腰を据えた一蹴りは体格の良さも相まって相手の拳よりも先に届き膝をしたたかに弾いた。男はとびかかった勢いも加わって崩れた膝のまま頭から突っ込んだ。狭い路地、目の前は間の悪いことにこの辺りでは珍しいコンクリートブロックの壁だった。真正面から突っ込んだ男。それに構わずジェシンは蹴りだした足の進むまま前に進む。

 

 「まて!待てよ~コロ!ちょっとからかっただけじゃねえか・・・。」

 

 「中をよ、確認したら返すつもりだったぜ、クスリじゃなかったらよう・・・。」

 

 口々に言う男たちに構わずジェシンは進んだ。虫の居所が悪かった。避けも少し残っていた。自分から匂う安い香水の匂いが神経をいらだたせる。だから女のいる酒場は嫌だといったんだ。この服ももう着られねえ。匂いが移った。多分口紅も擦りつけられてる。俺はああいう女が大っ嫌いなのに、それを知っててあいつはいつも俺を呼びやがる。一人で遊べってんだ。

 

 「・・・そんなこと信じるわけねえだろ・・・。」

 

 路地裏に引きずり込まれる少年を見た。放っていこうと思ったが、引きずっている奴らは小さな少年に対して5人もいた。顔見知りではある。この辺りでのさばっているチンピラだ。どこの組織にも入らない自分たちだけでやる、なんて豪語しているが、こうやって脅しやすい、奪いやすい弱いものを傷めつけているだけの輩。噂は聞いていた。現場を見たのは初めてだった。思ったより腹が立つものだと足は勝手に追いかけて路地に走りこんでいた。

 

 男たちは少年から手を放していた。少年はずりずりと尻で後退さっていた。ジェシンを見、男たちを見、そしてさっき男が投げた紙袋の行方を追っていた。ジェシンには丸見えだった。妙に高く放ったせいで、ドラム缶の上に載ってしまっている。軽そうだな、割れ物じゃねえだろうな、と喧嘩を仕掛けたくせに妙に冷静な自分に気付いた。

 

 ジェシンが引く様子を見せないからか、男たちが逃げ腰な姿勢から雰囲気を変えた。たかが相手は一人、それがこの界隈で最近名の売れ始めた暴れ馬コロでも、自分たちだって武闘派でこのスラムで生きてきている。喧嘩なら人数の多い方が勝ちだ。もしここでコロをやっつけたら、名が上がる。一家を構えられるかもしれない。この辺りに乱立する小グループのやくざ者たちの中で、頭一つ出られるかもしれないという希望に、男たちは体を戦うために構えた。

 

 バカが、とジェシンは唾を吐いた。狭い路地。三人一緒にかかっては来れないのが分かってねえ。こいつら本当にこの辺りに巣食ってるのか。ジェシンはそれでも油断なく背後の気配を嗅ぎ、そして足場を固めた。

 

 るせえ!と一人が殴りかかってきた。大ぶりなその拳の動きなど丸見えだった。体を丸めて飛び込み、みぞおちを突く。ぐ、という声と共に突き出された顎に左拳を突き上げてやった。嫌な音が聞こえる。あごの骨が割れたのが感触で分かる。

 

 だから素手はやなんだよ。

 

 そう思う間に、崩れる男の後ろから角材が振ってきた。流石に避けた。少し髪をかすめた。おっとあぶねえ、そう思いながら横手で角材を振り上げようとした男の首筋に右こぶしを叩き込んだ。白目をむいた男は、前のめりに倒れたがその先には自分が持っていた角材。胸に先が突きのように入り、もう一度ぐえ、という声を上げて泡を吹いて倒れた。あ~あ。

 

 あ・・・あ・・・と言いながら最後の一人が逃げていく。あ~あ、あいつ、もう誰にも相手にされねえな、と首を鳴らした。後ろで顔を壁に打ち付けた男だけがうめいている。別に他の奴らも死んではいない。気絶してるだけだ。あと骨が一寸砕けただけ。

 

 ジェシンは少年を見た。少年は残った三人がジェシンに集中した瞬間に立ち上がり、ドラム缶の傍まで走っていた。大きなドラム缶だ。少年にとっては届きそうで届かない。それでも必死にとび、どこかよじ登れないかとうろうろしている。

 

 ジェシンは近づき、袋を取ってやった。びく、と体を硬直させた少年は、ぶかぶかのハンチング帽を深くかぶっていたが、男たちに引きずられたときにずれたのか飛び跳ねてずれたのか、後ろにずり下がっていた。

 

 真っ白なその顔は、埃に汚れていたがあまりに整っていて、ジェシンは驚きに立ち尽くすしかなかった。

 

 

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