ファントム オブ ザ 成均館 その56 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 さて、と三人は王宮の門前に立つ。待つのはただ一人。周りの者たちは、『花の四人衆』の残りの一人を待っているだけだと思っているだろう。

 

 成均館の儒生であるときからその存在を知らしめてきたこの呼び名。一人欠けてもならない。家の規模も、派閥も、性格も、それぞ

れの持つ見目の良さも全く違う。なのに四人が一緒に居ると華やかで、その絆が見て取れて、つい遠巻きにして眺めてしまう特別感がある。それが大科を終えて、従事官となっても続くこと、それ自体が四人の縁を周囲が勝手に感じてしまう。

 

 特別なのは特別だ、と三人は苦笑する。三人を繋ぎとめている縁の紐は四人の中の一人に太く太く伸ばされている。たった一人を中心に、自分たち三人はつながっている。それを皆自覚している。

 

 成均館で得たこのつながりは、何があろうとも切れる事はない。何しろ、そのたった一人は成均館の主に愛されたただ一人なのだ。そう言えば、知らぬ者は何を言う、と驚くだろう。

 

 儒学に秀でているものは沢山いる。正直、大科でその才能を見事に余に知らしめたのは、ここに居るイ・ソンジュンであり、ムン・ジェシンだった。学問の神に愛されたものだというのなら、このように成績にその実力が反映されるものだ。そのたった一人、キム・ユンシクはその点ではこの二人には及ばない。ク・ヨンハだってユンシクより席次は上だった。

 

 だが、そうではないのだ。学問の成績の優劣ではないのだ。成均館という国の儒学を学ぶ場の最高峰で、キム・ユンシクはそこの守り神に認められたのだ。儒学を学ぶ者に相応しい、と。成均館に居るべき人物だと。女人の身で。

 

 小科に受かっていなければ、その中でも成績が良くなければ、身分が両班でなければ、男でなければ入れない成均館に、彼女はいた。勿論性別を偽って。その理由に同情すべき点はいくつもあるが、本来は許される行為ではなく、罪にならなくても追い出されるべき存在。けれど成均館の主はそれを知っても存在を許した。なおかつ手を差し伸べた。主は成均館を儒学の地として守るべく、その秩序を、あり方を正すために居たはずなのに、根本を揺るがすような存在の彼女がそこに在ることを許した。

 

 彼女の儒学への想いなのか、その境遇を改善すべく身を差し出して戦っている勇気に対してなのか、まじめな人柄に対してなのか、本当の理由は誰にも分らない。けれど成均館の主は、彼女が成均館で学ぶべき人物であると認めたのだ。それが全てだ。

 

 彼女は大科を突破し、師となった成均館の主との第一の約束を果たした。本当はそこで彼女の戦いは終わるはずだったのだが、美味くは行かず、暫くはまだ男として存在せねばならない。だからもう一つの約束を果たす日は少し先になった。

 

 三人はその約束の内容など知らない。けれど成均館の主が願ったことはわかる。彼らも同じように、彼女が成均館に居るべき人だと認めていたから。友として、仲間として、彼女が素晴らしい人物だと知っているから。だから彼女はこの先、幸せにならねばならないのだ。志を果たした先に、彼女の幸せが待っていなければならないのだ。

 

 その幸せを共に作るのが自分でありたい、と三人は思っている。強く思っているのは二人。少し遠慮がちに、それでも幸せが少しでもかけるようなら攫って行くと決めているのが一人。何をしたらいいかどうしたらいいかなどわかっていない。彼らはこれからは彼女を守り、共に過ごす時間を素晴らしいものにすることしか考えていない。

 

 けれどその先に待っている彼女の手をとる男は自分でありたいと、三人は視線を交わす。一歩前へ出ているのは、成均館の主を兄に持つ青年だ。彼の中には主との思い出を彼女と共有するという特権がある。だがもう一人だって負けはしないと強い視線を送る。彼女の親友という座は絶対的に揺るがなかった。何があっても彼女は彼を親友だと言ってくれた。その絆を太くするのだ。彼女の隣に居るのは親友でなければならないのだから。それを笑みを含んだ視線が遮る。下手を打ったら貰っていく。自分にはそれができる力も金もある。父親からの縛りが少ない立場を十分に使いこなせるのが自分しかいないことを青年は知っている。

 

 足を引きずる姿が見えた。遠い実家から重い靴を履いて彼女はやってきた。三人は駆けだす。紐にひかれるように。笑い声が聞こえた気がした。穏やかに、けれどよく響く笑い声が彼らに降り注ぐ。成均館を背負いし若者たちよ、成均館の愛し子を守れ、愛せ、その子のためならば、成均館の守り神の座を捨て、亡霊にでもなろう。我が唯一の弟子、生ある時に残した一つの証。

 

 彼女が幸せに生きることが儒学の果てだ。成均館の教えを守れ。国を守るという事は、一人の女人を幸福にすることだ。彼女を通して、成均館で学んだことを世にふるまえ。それが主の望むことなのだ。

 

 三人がたどり着いた先には一人の男装の娘。弾ける笑顔に、また空から笑い声が降り注いだ。

 

 

 

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