ファントム オブ ザ 成均館 その50 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 「いらだってるなあ、カラン、寝不足か?」

 

 「・・・それはお互い様です・・・。」

 

 「俺はお前たちより寝てるからさあ。」

 

 ソンジュンは黙った。ヨンハにからかわれているのはよくわかっているが、いらだっているのを隠せていないのは失策だった、と反省もした。大科を控えたこの時期、受けるものは皆必死だが、その必死さを見せてしまうことは見栄もあって格好悪いことだと思っているからだ。それはソンジュンに限った事ではない。勉強に勤しむ姿は構わないが、その辛さを人にぶつけたりあからさまに表したりするのは、それこそ大科を受けるもののやることではないのだ。

 

 ただし、このいら立ちは寝不足のせいではない。ヨンハはよくわかって言っているのだ。それはおそらく中二坊三人の間に流れる空気が変わったのを敏感に感じ取られたからに違いない。

 

 「・・・何も無いです。不快にさせたのなら申し訳ありません・・・。」

 

 ははは、とヨンハは笑った。

 

 「まあ、お前はちょっとやりにくいよなあ。」

 

 

 そうなのだ。

 

 

 ソンジュンだって、親友のキム・ユンシクが女人だと知った時から、自分の胸の内をぐるんぐるんと渦巻く感情と戦いながら今まで来ている。女人なのに成均館に居るなんて、という儒学特有の倫理観との戦いと、彼女の生い立ちを含む今までの背景への同情とそれゆえの行動への理解、それ以上に彼女の学問への真摯な姿勢、才能への純粋な尊敬、人として、それこそ友として来た間の確かな二人の絆、それらをかきまぜかきまぜ、そしてやはり女人としてしか見られなくなっている自分と戦い、女人として見た彼女が美しく素晴らしい人なのだと理解が出来た瞬間、ああ、自分は恋というものを知ったのだと分かった。そうなのだ。ソンジュンはキム・ユンシクに恋をしている。ただ、今は隠さねばならない感情で、それは同室のジェシンも同じはずだった。お互いにお互いの感情を分かっていたうえで、暗黙の了解として表に出さないはずだった。

 

 しかし、ジェシンはとうとう牙をむいた。ソンジュンに見せた。同室生の戯れだとユンシクは思っているかもしれない。けれど確実にジェシンは彼女に近づき始めた。意志を持って。きっかけは偶然だったかもしれない。ソンジュンもここのところの寝不足に、日中一瞬は目を休める。その時は目からの情報を遮断するからか、意識も一瞬飛ぶ気がする。そして目を開けると頭もすっきりするから、ジェシンが目をつぶって一瞬眠ってしまったのも分かる。けれど覚醒していく時点でのジェシンの行動は、確実に意識的だった。ジェシンの態度がそう示していた。

 

 今までソンジュンやジェシン、ヨンハがユニに対する態度に気を付けていたのは、ひとえにユニが女人だと他の者に知られないためだ。ソンジュンの親友、ジェシンの可愛い後輩、同室で男女が寝起きしているなんて誰も思わない。そういう態度で居続けた。ユニだって彼らが知っているとは思っていないだろう。本人すら騙している三人の見事な態度。それを、ジェシンはソンジュンに向かってだけ崩した。

 

 同室だからだろう。そして、ソンジュンがジェシンにとっては最大の敵だからだろう。男装の娘を巡る。

 

 本来なら条件は同じだ。家柄もほぼ同じ。年もたいして変わらない。様子は違うがどちらもそれなりに整った容姿。頭脳も他の者と比べてとびぬけて優秀。派閥も彼女とはどちらも違う。けれど、けれど。

 

 彼女とジェシンには一人の人を挟んだ絆が、彼女の知らない間に一つできてしまった。彼女が成均館で出会った生ける亡霊、そして彼女の唯一の師となった人が、ジェシンの兄だったのだ。その人は彼女を心から可愛がり、導き、支え、そして逝ってしまった。そして詳細は知らないが、その人が二度目の死を迎えるとき、弟であるジェシンは傍に居ることができ、何かを引き継いだのではないか。

 

 その一点において、ソンジュンは踏み込めない。立場としても、そして。

 

 一人の人としても。

 

 

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