ファントム オブ ザ 成均館 その49 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 ジェシンがユニを抱え込んでしまったのは、わざとではない。無意識だ。

 

 だが、寝ているときの体は正直だ、と自分でも恐ろしくなった。ソンジュン相手に、そう、敵意を隠しもしないソンジュンを相手にできるだけすました顔をしているつもりだが、心臓はバクバクしている。

 

 いい匂いだった。柔らかだった。

 

 ユニを触ったことがないわけではない。常に一緒に行動しているようなものだ。並んで歩いていたら体がぶつかることだってあるし、しょっちゅう転びかけるユニを支えたり腕をひっつかんだりすることだってある。一度ならず二度ほど負ぶったことだってあるのだ。だが、今回は何か違う。

 

 ゆっくりと覚醒していったのは、元から少し目を休めるだけ、と頭の隅にしっかりと意識付けてから壁にもたれて休息したからだ。長い時間眠るつもりはなかった。元から目覚めるはずの、ほんの短い間に何が起こったのだ、と驚いたのは自分の方だといいたいぐらいだ。俺は何にもたれている何を抱きしめている。胸のなかで言い訳をしていても、自分が抱え込んでいるものが何かなど十分わかっていた。腕の中にすっぽりと入る小柄で柔らかな体、頬に当たるすべらかな髪、華奢な肩、そして鼻腔を満たす薄甘い香り。可愛い同室生しかいなかった。

 

 無意識だった、のは確かだ。だが恐ろしいのは、おそらく同じことをしようとしたのがソンジュンだったら、ヨンハだったら、と自らに問いかけても、ジェシンは抱きしめることなどしないだろう、と断言できることだ。考えただけでも恐ろしい状態だとすら思う。傍に来たのがユニだから、なのだ。そして眠っていて無意識でも、ユニであることをジェシンははっきりと見分けたのだ。

 

 ああ、これほどとは、とジェシンは諦めた。自分の思いを隠すこと、我慢することを。同室に寝起きし、成均館生でいる間、ユニがキム・ユンシクとして存在するために、行動を起こす気はさらさらない。だが、こんなに自分はあの娘を欲しているのか、無意識に体が動くほど、と自覚した瞬間、気持ちを隠すことは諦めた。本人にではない。本人に駄々洩れにしてしまったら困るだろうから。何しろ彼女は自分が本当は娘であることは知られていないと信じているのだから、困らせることは本意ではない。だが、こいつは、と目の前でジェシンを睨みつけるソンジュンを見返してやる。

 

 分かってるぜ、イ・ソンジュン。とジェシンは鼻で笑ってやった。キム・ユンシクの初めての友、お互いがお互いを親友と思っている、周囲から見たらありえない組み合わせの友人同士。悔しいが、常に一緒に居るのは誰か、と聴いたら、ユニはソンジュンの名を上げるだろう。同時期に小科に合格した二人は、成均館に入るのも同時、だからこそとる講義も同じものがほとんどで、昼間のユニはソンジュンの隣に居る事ばかりだ。加えてソンジュンは容姿も端麗で、その上比べるものがいないほどの秀才。ユニが傍に居て憧れないわけはないともよくわかっている。このまじめで優秀な後輩に敵うものなど自分には大してない。それもよく理解している。

 

 けれど、その足りないことだらけの自分だからこそ、素直にユニに接することができる。先輩面をすることもある。ユニだって田舎で何も知らずに育っているから、両班社会のことでわからないことが多い。それを教えてやれるのも先輩の特権だ。その無知をからかいながら自分なりに手助けしてきた。自分だって足りないことの方が多いから人のことなど言えない、と心の底から思いながら。

 

 お互いに補える関係というものが、ユニの自尊心を満足させるだろう、とジェシンはユニを見続けてきて思う。彼女は実家でも頼りにされすぎてきて、確かに助けてもらうのをものすごくありがたがるが、逆にそれをちゃんと返して、なおかつ力になりたいと思う人間だ。

 

 イ・ソンジュン。お前は家も大きく、自分自身も立派だ。儒生だとはいえ、立派だ。立派過ぎる。だから、あいつの持てる力を発揮させてやることができないぜ。俺はよ、イ・ソンジュン。あいつを本当に心の支えにしてしまう男だ。逆に、俺を全部あいつのために使ってやれる。足りないものだらけだから、自分にあるもの全部をあいつのために使える。あいつを守るが、あいつにも守ってもらう。それに俺は気づいた。お前が気づく前に、あいつを貰う。

 

 

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