ファントム オブ ザ 成均館 その51 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 「お前は、自分が関わりなかったとはいえ、ムン・ヨンシン様の被った不幸には罪悪感がある。それはひいてはコロへの罪悪感でもある。違うか。」

 

 ヨンハの言葉にソンジュンは眉をひそめた。本当に嫌なところをついてくる。事実なだけに反論もできない。

 

 ヨンシンを知らなければここまで胸の内で拗らせる事はなかった。ヨンシンの冤罪事件は、ジェシンにとっても少年時代のこと、ソンジュンは三つ下だから余計に幼い時の話だ。知ってはいても、まるで違う世界の話だった。老論のやり方に疑問を持って育っても、自らが見聞きした事実でなければどこかよそ事だ。だが、ソンジュンはヨンシンに会ってしまったのだ。かつての老論が犯した卑怯な手口の果ての姿を。

 

 暗いところで出会えば、幽鬼と間違えてもおかしくないぐらいに窶れ、血の気のない顔にしたのは誰か。ただし、ソンジュンが何者かを知っていても、あの晩、ヨンシンは何の恨み言も言わず、ただ弟ジェシンと話し続けた。あんな目に遭ってもどうして保てたのかわからないほどの精神の強さ、信念の強さ、そしてジェシンに見せたやさしさ、ユニから感じる尊敬すべき人柄に参ってしまった。今頃になって、なぜ俺に祟る。余りにも。

 

 生ける成均館の亡霊は、その正しい姿でソンジュンに老論の犯した罪を祟ったのだ。突き付けたのだ。罪は、二度も兄を失う羽目になったジェシンの姿と、唯一の師を失うことになった大事な親友の悲しみという姿でソンジュンを責める。

 

 ソンジュンが二人を慰めることができるのならいい。だが、ソンジュンはその立場ではないのだ。最もできない、してはならない人間なのだ。手をこまねいているしかない目の前で、傷を持つ者同士が触れ合うのを見てしまった。そこに、正当な抵抗は、ユニが女人であることを気づかせないようにしなければ、という一点しかない。

 

 「ですが・・・コロ先輩だって、ヨンシン様がご自分の兄上であったことをキム・ユンシクには言えないはず。そうじゃないですか?」

 

 「さすがだなあ、カラン。」

 

 聡く、そしてユニとジェシンの傍に長くいる二人にはわかる。ユニの悲しみ。ジェシンの悲しみ。もしユニが自分の師がジェシンの兄だと知ってしまったら、ジェシンが兄と過ごす時間を自分が取ってしまったのではないか、自分が教えを乞うという事をしたために、彼の寿命を縮めてしまったのではないか、という苦しみを背負うことになる。そんな事はないと皆が否定しても。唯一その思いが軽くなるのは、在りし日の姿をお互い語り合い共有することだ。そのためにはジェシンの口からきちんと伝えなくてはならない。成均館の主、亡霊と言われた男が兄であり、それはユニよりもかなり後に知った事であり、それは家族にも内密しなければならない男側の理由によるものであることを。そしてそれをジェシンが納得していること、最期にはジェシンが弟として見送ることができたこと。そして今、それは言えないのだ。時はまだ、来ていない。生々しすぎて、理性よりも感情が納得しない。

 

 だから、ジェシンもこれ以上は前に進めない。

 

 「・・・俺は、敢えて、今まで通りに。コロ先輩が挑発してきたって負けはしません。大科の後、キム・ユンシクの隣には俺がいることを、本人に納得させますよ。」

 

 ふふん、とヨンハが笑った。

 

 「それでこそカランだよ。まあ、テムルを傷つけないようにせいぜい頑張れよ、二人とも。お前たちが失敗しそうになったらさ、あいつが傷つく前に、俺があいつを拾うからさ。」

 

 ソンジュンは鋭くヨンハを見た。ヨンハはへらへら笑っている。しかし目は笑っていなかった。

 

 「もし、あいつが身を隠したい、と思った時。お前たちから逃げなければ、と思った時。俺はあいつを隠してやれるんだ。お前たちと違い、俺は家の中で裁量できることが多い。それこそ、都から遠くに連れて行ってやることだってできる。それを忘れるな。俺にとってもテムルは大事な大事なたった一人だ。」

 

 多分コロは知ってるぜ、そう言うと、ヨンハはすたすたと先に東斎に戻っていってしまった。

 

 

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