ファントム オブ ザ 成均館 その47 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 大科への挑戦に頭脳をたぎらせながら日々は過ぎていく。秋の夜長はすぐに終わり、厳しい冬がやってくれば、夜中に眠ってしまわないよう集まる講堂での自習の毎夜。布団をかぶり、寒さに震えることで集中を高めて机に向かう。それでもユニは夜中には中二坊に追い返される。寒がりのヨンハに引きずって連れて返されるのだ。こればかりは皆ユニの意見は聞かなかった。誰が見ても誰よりも体力が劣るユニ。一日二日の話ではない学問漬けの日々に、体を壊すということ自体が大科の敗北を意味する。分かっているだろう、と暗に成均館の亡霊の話を蒸し返された。お前を亡霊にするわけにはいかない、と言われた。

 

 亡霊はもういらないのだ、とチョン博士も言った。気を付ければいいことを気を付けなかったために起こった出来事だ。今まで儚くなった何人かの儒生にも落ち度はある。目の前のことに必死になってしまい、周囲の忠告を聞かなかったのだ。体を壊す、顔色が悪いから少し休め、そういう言葉が聞こえなくなった。おそらく確かに心配をして心から忠告してくれているはずなのに。大科は、いつも通りの学問の姿勢だけで通らない科挙であることは確かだ。眠る時間を削り、ただ頭に言葉を詰め込んでいかなければ何も論じることができないものだ。だが、それに合格する価値があるのは、生きていてこそだ。その頭脳を持って働ける体があるものだ。大科を受け、倒れてしまうようではダメなのだ。その忠言が聞こえなくなった、もしくは忠告してくれる友や師がいなかった、そんな者たちが亡霊となってしまっている。聞く耳を持っていて気を付けていて、けれど元からの自分の体の虚弱を分かっているものは亡霊にはならない。

 

 君の師匠は、キム・ユンシク、生きながら亡霊となったのだ。彼は主と呼んでいたね、自分のことを。彼は自らの体のことを承知していた。覚悟していた。その上で最後の使命をこの成均館に捧げてくれた。そこに後悔はないだろう。君という弟子もできた。だが、その大事な彼の弟子が体を壊すような馬鹿な真似をしたら、彼は何というだろう。考えたまえ。君は父君を急な病で亡くし、弟の弱さに翻弄されてきた。師の体が蝕まれていく過程も見たくなくても見ただろう。それを忘れてはならない。君は病の怖さをよく知っているはずだ。同じことになればどれだけ周りが悲しむか辛いか知っているはずだ。師が喜ばないことを知っているはずだ。今まで無理を通してきたのだ。最後まで、大科を通るまで、学問と、その健康を守り切るぐらい、出来るだろう。

 

 「僕には・・・僕を案じてくれる友も、忠告してくれる師も・・・いるんだ。」

 

 一人つぶやくユニの隣をジェシンが歩いている。大きなあくびをしている彼は少しやつれた。当たり前だ。イ・ソンジュンと共に、誰よりも遅く、夜明け近くまで講堂で勉学に励み、ほんの少ししか布団の上で眠らない日々が続いているのだ。時々寝てるから大丈夫だ、とジェシンもソンジュンも言うが、ユニはその居眠りの姿を見たことがない。顔は少しやつれたが、それでも二人は病のやの字すら感じさせない。二人ほど成均館で合格に近いと言われている成績のものはいないのに、誰よりも励んでいる。ユニは焦ってしまう。だってユニは二人には敵わないのを知っている。なのにユニは彼らより勉学に取り組む時間は少ない。

 

 焦る。けれど焦ってはならない、と自分に言い聞かせる。お前の勉学の中には、睡眠も入っている。体の健康を保つという事も、勉学のうちに入っているのだ。上手く釣り合いを取り、どうしたら勉学の時間を多くとれるか、起きている間に、という事を考えるのだ。睡眠を削ろうと思うな。サヨンと、ソンジュンと、ヨリム先輩と、僕とでは、努力することへの割合が違うんだ。同じであってはおかしいのだ。皆それぞれ違う人間なのだから。だからキム・ユニ。考えるんだ。師匠、僕考えて頑張ります。まず大科に受かる。その目標を達成してあなたに報告できるように、あなたの弟子であると言えるように、僕はちゃんと考えて行動し、第一の目標を突破します。

 

 「サヨン。大きなあくび!」

 

 「うるせえよ・・・眠いものは眠いんだ・・・。飯食ったら、もう一度顔を洗う・・・。」

 

 であったころなら、眠いから寝かせろ、と講義を休んで中二坊で転がっていたはずのジェシンから出た言葉に、ユニはにっこりとほほ笑んだ。

 

 

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