ファントム オブ ザ 成均館 その45 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 少しずつ時は過ぎ、ユニが落ち着いたころ、大事件があった。西掌義ハ・インスの父親が捕縛されたのだ。自然、家族として屋敷に軟禁状態になったインスも成均館から姿を消した。一時大騒ぎだった成均館もようやく落ち着きを取り戻し、翌年の早春に控えた大科に専念するものが出始めると、成均館全体の向学心がまた上がったように思えるほど雰囲気は一変した。

 

 騒ぎの最中は大変だった。

 

 何しろ、ハ・インスの父親が捕縛された理由は賄賂の絡んだ殺人教唆の容疑だったのだが、それが全てジェシンの兄が連座させられた疑獄事件につながるものだったのだ。虚偽の贈賄をでっちあげた男に褒美を与えたのちに殺し、更にその実行に当たった男が自らのしたことを棚に上げて恐喝したことにより、襲わせた。未遂に終わったその事件により次々に過去の事件の鎖が解け、たどり着いたのがハ・インスの父親。他の老論の者も数名捕縛され、成均館ではその中にイ・ソンジュンの父親が含まれないことに、彼の父親を裏切り者呼ばわりするものが出た。その時矢面に立ったのはジェシンだった。

 

 「そんなことを言うなら、俺の兄が冤罪で罪を被ったときに、それを是としたお前たちの親、お前たちも含めてだ・・・も裏切り者だ。自分たちは何も知らないくせに、罪のないものに石を投げ、罪がないとわかったら自分がした事には知らんふりをする。真実にたいして裏切りを続けてきたお前たちに、人を批判する権利など全くない!」

 

 お前たちもだ、と振り向いた先には老論と対立する小論の儒生たちが立っていた。皆目を背ける。疑獄事件の時、誰もムン・ヨンシンを助けなかった。これで一つ官位があく、小論の誰かが上に上がれる、若造のくせに出世を急ぐからだ、などと陰口が出回ったことをジェシンは忘れていない。ムン家に対して関係を遠ざけようとした家だってあった。それが冤罪が確定したにもかかわらずヨンシンが流刑先で亡くなったと聞いたとたん、ずっと同情しておりました、みたいな顔をして以前と同じように出入りしようとする奴ら。一生赦すことはない、そんな強い視線に、皆顔を上げられなかった。

 

 「俺はあいつが・・・ハ・インスは嫌いだが、あいつが関わっていないことであいつを責めようとは思わない。罪は犯した者が償うべきだ。俺の父は兄のことについて真相を探り続けていたのだろうが、たどり着いた真相の先に居たのが今回捕縛された人たちだ。何も探らず、調べもしていない周りが勝手に罪人を増やすんじゃねえ。成均館儒生は、捕り方じゃねえんだぞ。」

 

 サヨン、とユニが袖を引く。そう、成均館儒生の本分は何なのか、こうやって罪人をあら捜しして騒ぐことではない。儒学とは何かを学び、そこに真理を探り、正しく生きていくための芯を自らに作り上げ、それをもって国に尽くす。そのために成均館はあるのだ。世の中を知り考える事と、やたらに騒ぎ立て声高に批判し合う事とは違う。それは成均館儒生の為すことではない。

 

 俺たちはまだ、儒学の徒にもなり切っていないひよ子なのに、何を批判できるというのだ。

 

 そう言い切ったジェシンの袖をまたユニが弱弱しく引っ張った。ユニの目には涙が一杯浮かんでいた。その隣に居るイ・ソンジュンも一言も発せずジェシンをただ凝視していた。ソンジュンの弁舌なら、文句を言われても論破できただろう。以前のジェシンなら放っておいただろう。だがジェシンはソンジュンの前に立ちはだかり、ソンジュンを通じてソンジュンの父を糾弾しようとする儒生たちに逆に糾弾し返したのだ。何をばかばかしい。何者にもなっていない、成均館での本分すら全うできていない自分たちが何が言えるのか、と。

 

 ヨンハがほほ笑んでいた。肩を優しく叩き、戻ろう、と声を掛けた。サヨン、とユニが見上げて来る。涙でいっぱいの瞳には、全てを肯定する光がともっていた。ソンジュンが頭を軽く垂れた。その肩をまたヨンハが叩く。ジェシンも思いきり叩いて、踵を返した。

 

 「俺たちは成均館儒生だ。なあ、シク。」

 

 うん、と頷いたユニの頬から涙が一筋こぼれた。

 

 

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