ファントム オブ ザ 成均館 その40 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 ジェシンは毎晩ヨンシンの下に通った。チョン博士は、あと数日の命だろう、とジェシンに告げていた。物を食べることもできない、排泄すらできないのだという。それでも意識はあり、だからこそせめて最後まで願いを口にすることが出来るよう、少しずつ水分と薬湯を擦りつけるようにしているのだと。それしかできないのだと。薬湯というのは名ばかりで、もう体を強壮にするための成分は摂らせても体に入っていかないのが明白だから、意識を保つための栄養としての糖分、そして体温を少しでも保つための成分を含む・・・ショウガなどをとろみをつけて口に含ませ、徐々にのどに流れるようにしているだけなのだと聞かされたジェシンは、涙をこらえてヨンシンの枕元に座った。

 

 ヨンシンとジェシンは、学問について結局は話さなかった。それでも、儒生として在ったころの自分が思っていた、成均館の儒学校としての在り方を理想に近づけるために働けたことに満足していると繰り返しジェシンに伝えてきた。

 

 「儒生たちの様子を見聞きして知ったよ。イ・ソンジュン君のように才能あふれるもののためにも、だが、才能は平凡でも地道に真面目に物事に取り組むもののためにも成均館はあるべきなのだとね。成均館に最も必要ない人物は、儒学を学ぶ上で人を貶めることを手段とするもの、そして学問に近道を見つけようとする者だ。私が儒生であった時にはあまり意識していなかったが、ここに亡霊となって居続けるうちにそう思うようになったし、それが全てではないが、真理には近いのではないかと思っている。けれど私は聖賢ではないからね、迷える儒学の弟子でしかないし、家族を悲しませた俗物だ。けれどね、最後にまじめで地道で、そして全力で学ぶ一人の儒生を少しでも導くことができたのだと満足しているよ。」

 

 「兄上、俺は・・・まだ何の目的も持てていません。兄上のように儒学への理想だってない。」

 

 「良いのだよ。私だってお前と同じぐらいの年の時に明確な目標などなかった。ただ学んでいた。これからだ。自分を、家を、友人を、大切な人々を守るために自分が何を学びどう働かねばならないかを知るのは。焦らなくてよい。ジェシン、お前はいい子だね。」

 

 「こ・・・子どもではありません!」

 

 「はは・・・いいやジェシン。お前は可愛い私の弟だ・・・いつまでもそれは変わらないのだよ。」

 

 

 数夜重ねるごとに、会話は短くなり、ヨンシンは眠ることが増えた。それでも、チョン博士がジェシンに告げた日数より、ヨンシンは生きた。

 

 「そうか・・・お前はキム・ユンシク君の正体を知っていたか・・・。」

 

 「兄上が知っておられることの方が驚きです。」

 

 「私はチョン博士に聞いたのでね・・・。そうか・・・娘ごと分かっていて、それでもお前は共にいてやっているのだね・・・。」

 

 「共にいてもらっているのは俺の方ですよ。儒学への想いは、俺などあいつの足元にも及ばない。」

 

 「人を認めることを知ったお前は、成長したのだよ。お前を成長させてくれたキム・ユンシク君に感謝せねば・・・。」

 

 ユニの話題も必然的に話題に上った。だからヨンシンには気づかれてしまった。

 

 「しかし・・・数年後にはキム・ユンシク君とは良い仲間のままではいられないよ・・・本物のキム君なら別かもしれないけれどね、今ここに居る彼は、数年後も男のままではないだろうね、それが目的ではないだろう。」

 

 「・・・それはわからないですよ。」

 

 「弟ごの名だと聞いた。その弟ごと入れ替わったら、今のキム君は女人に戻る。おいそれと人とは会わなくなるだろう?それに、弟ごを世に出すための今だろう。」

 

 「だが!今俺の同室生はあいつだ・・・。」

 

 「はは・・・今のキム君が良いか・・・確かにね、あの子はいい子だ。儒生としても人としても・・・それに娘姿に戻れば、大層美しいだろうね・・・。」

 

 黙り込むジェシンに、ヨンシンは笑んで目元を緩めた。もう彼の体で自然に動くのは顔の表情だけだった。

 

 「もし彼がここにきてくれても、もう彼の可愛らしい顔は見えないよ。それまでもほとんど見えてはいなかったけれどね、それでも灯に近づいたときにふと見えた容姿は美しい輪郭だった。声も低く抑えてはいたけれど澄んだいい声だったね。はは・・・彼の書を読む声がまた聴きたいね・・・。」

 

 

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