ファントム オブ ザ 成均館 その36 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 一人寝はどうだい、と聴くヨンハに、

 

 「えっとね、結構寂しいよ・・・。」

 

 と冗談でもなくしょんぼりするユニの様子は、周囲にいた儒生を笑顔にした。

 

 「俺は一人部屋になりたいぜ!」

 

 「よくこんな大男たちと同じ部屋に寝て窮屈なのを懐かしがれるな!」

 

 と笑う者たちに、ユニは頬を膨らませた。

 

 「いつもと違う環境に急に置かれたら、不安にもなるよ!」

 

 あははは、と笑う者たちには、公開諮問は全く関係のない見世物としての楽しみだ。文句を言ったのは自分たちではないし、キム・ユンシクのことは普通に友人だと思っている。それぐらいの味方はユニにだってすでにいた。筆頭であるアン・ドヒャンなどは、お前と頭の出来を競おうなんて絶対思わない!と宣言して、ソンジュンを呆れさせていた。

 

 「でも、僕、緊張する・・・。」

 

 「王様の御前でしっかりと答えているくせに、今更緊張なんてしなくていいだろうが!」

 

 とまたドヒャンが笑う。それを遠くで聞いていた、ユニと対戦する数人が顔を青くした。彼らは王様から指名される口頭諮問の場に呼ばれたことすらないのだ。成績順で提出される儒生の名簿で、王様の目につく箇所に名前がない者たちが、よくぞ身の程知らずに、とはユニの周囲に居るものの感想だし、彼らの周りに居るものも実はそう思っている。ただ、派閥の仲間意識的なものが、ユニを応援することをまずないものとしているだけだ。馬鹿なことをしたものだ、と誰もが思っている。

 

 それはハ・インスも思っているようで、今回のことには知らんふりをしていた。それでも、何とかしてください、と訴えて来る老論の手下のものに、自業自得だとは言ったものの、キム・ユンシクが目立つのも称賛されるのもうれしくはない。ただ、博士たちも思うところがあるのか、最短で設定されたこの公開諮問の準備期間の間になにか妨害が出来るかと言われれば無理と言わざるを得ない。忌々しいムン・ジェシンや、ちっともこちらの言うことを聞かないイ・ソンジュンと部屋が離れたが、博士たちの居室と同じ棟に居るのに襲うこともできはしない。

 

 正直面倒だったのだ。ハ・インスにとっても今回のことはあまりいい気分の出来事ではない。手ごまに使っていた何人かの下斎生も退学になった。余りにもお粗末な理由で。インスにとって成均館儒生でいるという事は、ここに居る間に人脈を構築し、箔をつけ、華々しく王宮での地位を勝ち取っていくためのことであって、学問をおろかにするということは、成均館のその価値を落とすという事なのだ。成均館は国一の儒学校でなければ困るのだ。それを貶める行為をすることは問題外ではあるが、やるなら見つからないようにやれ、と言いたい。バカは何をやらせても何もできない、と正直思ったので、その者たちが退学になろうと知ったことではなかった。ただ、キム・ユンシクがこれによって名を上げるのは腹立たしいだけだ。

 

 「この間も熱を出してただろう。風邪でもひかせればよいだろうが。」

 

 

 やけくそでそう呟いたハ・インスの言葉に、ユニと並んで部屋を与えられた者たちは、夜中遅くまで大声で素読をし、しゃべり、物音を立てた。ユニを寝かせないために。それが一日目の晩。次の晩も続けようと思ったのだが、ユニはすっきりとした顔で起きて一日を過ごしていた。寝不足なのは自分たちの方だった。つづける自信がなくなった彼らは、部屋に入る前のユニに水をぶっかけてやろうと画策した。着替えもたいして持ち込んでいない。濡れたら夜の冷たい風が吹く中、中二坊に着替える服を濡れたまま取りに行かなければならないだろう。扉の前の縁側を濡らして水を溜まらせ、慌てて避けた先に水をたっぷり張った桶を置いて、それをひっくり返させようと思ったのだ。下半身がびしょぬれになればいい。転べば全身濡れる。体を冷やさないようにと薬房から厳命されているらしい虚弱なキム・ユンシクならすぐに体調を崩すだろう。そんな風に計画したのに、覗いていたら、濡れているじゃないか、と書吏が気づき、斎直達を呼んで、ユニが戻ってくる前にせっせと拭き清めてしまった。桶もきちんと片づけられ、出るに出られない彼らの前を、ユニは涼しい顔で部屋に入っていった。

 

 そしてその夜、彼らは時折がたん、と物音がする、夜中の庭に面しているはずの壁からの音に怯えて、またも寝不足になる羽目になった。

 

 

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