ファントム オブ ザ 成均館 その32 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 下斎生はもちろんのこと、普段の儒生としての在り方に不正のある疑いのある者たちを、とにかく学問をするうえで、という基準においてじっと見ていたヨンシンにとって、キム・ユンシクという儒学に対して真剣な儒生はいっそう清々しく感じたという。

 

 絵にかいたような苦学生。しかし、優秀で手を抜かず、王様も期待しているという予備知識はあった。弱小派閥ゆえ人間関係でも苦労していることも耳に入っていた。邂逅する羽目になったのも、言って見たらユンシクを下に見る儒生たちの意地悪のせいだ。だが、学問に対して不真面目な者たちばかり見ていたヨンシンにとって、ユンシクとの出会いは心を明るく軽くしてくれることだった。

 

 うれしかったのだ、とヨンシンは言った。彼は自分の境遇はともかく、自分には学ぶことがありすぎると言っていた。こんな貪欲な向学心を見せてもらって、とヨンシンはほほ笑んだ。手助けをしたくなった、君たちと同じだよ、と。

 

 「夜中に、あの澄んだ声で質問をされるんだ。私が持ちうる限りの知識を伝えることができる・・・教える喜びを彼は与えてくれた。それにね、私は曲がりなりにも成均館の卒業生だよ。博士たちの信条だって知っている。支持する解釈があるってことをね。だからそれに沿って解釈をさらに解釈した。彼は素晴らしいね。短い時間に与えられる知識を必死に脳裏に焼き付けようと真剣に私のような胡散臭いものの話を聞いてくれた。日中もひとしきり頭を使っているだろうに。だから心配していたのだよ、熟睡できないのではないだろうか、と。彼が体を壊したとき、その懸念をちゃんと取り払うことをしなかった自分に怒りを感じたよ。」

 

 少しはキム・ユンシク・・・ユニの睡眠不足を補えればと、チョン博士に相談して、薬種を使った茶を与えた。しかし、きちんとまとまった眠りを取らせるほどの効果はなかったのだ。高熱で眠るユニの枕元で、激しく後悔した、とヨンシンは言った。

 

 「彼が深く寝入ったころ、彼の傍で私なりの講義をした。彼が本来受けているはずの講義で教授された部分を暗唱し、解釈を語った。一部だけだけれどね。人目は気にせねばならなかったから時間は限られていた。」

 

 ユニは休んでいる間の講義の内容も含めて試験を受けざるを得なかった。必死に遅れを取り戻さんと復習しているとき、以外にすんなりと獲得できる知識に本人が首をかしげていたのを、ジェシン達は思い出して納得した。そして彼らが見た黒い装束の男が、ユニの枕元で何かをしゃべっていた光景に、彼がしていたことが事実として肉づいた。

 

 試験後、二回ほどユニは5のつく日の夜に霊廟にやってきた。茶も薬種を少し変えてより体が温まるものにしたし、その上。

 

 「少しだけ特殊な香を焚いたのだよ。霊廟には香がつきものだからね・・・。」

 

 「彼が昼に眠るときに、日の光に惑わされないよう、少しばかり焚くのだよ。」

 

 それは、ある意味、睡眠作用が強いというよりも、鎮静剤に近い強いものなのだという博士に、あの香りか!とヨンハが叫んだ。

 

 ヨンハが数度、ユニから嗅ぎ取った香の匂い。気づいていたのか、と苦い顔をする博士に、ソンジュンが真剣に聞いた。

 

 「そんな緊急に必要のない薬剤や、香りとはいえ強い薬のようなものを吸わせて、キム・ユンシクに悪い影響はないのですか?」

 

 「薬種は、常用して体の調子を整えるという使い方もする。茶として喫しているものはそれだ。香は・・・量を間違えるとくるってしまうから、厳密な使用量を管理しなければならない。私が良いという量しか焚いていないから大丈夫だ。だから部屋まで自力で戻っているだろう。」

 

 ただ、床に入って気を緩めたら、一気に眠りに引き込まれるほどには、と博士は口を閉じた。

 

 「とにかく・・・私はキム・ユンシク君のおかげで、人に教える喜びを貰えたのだ・・・もう一つ、生きた証が出来たようだ。あと一仕事・・・する力が出たよ。彼が成均館を出るまで、ここを清浄に保つという仕事がね。」

 

 ヨンシンの口が動くたび、こけた頬に影が深く入り込み、その異常な痩せ方が三人の不安をさらに煽った。

 

 

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