ファントム オブ ザ 成均館 その31 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 「俺の体を・・・。」

 

 ジェシンの声はそこで途切れた。不可能な望みは口にするだけ絶望を増幅させる。言いたいことは皆分かっていた。自身の、ムン・ジェシンの、『暴れ馬』とさえ称されるほどの力強さ頑健さを誇るその体の強さを少しでも分けたい、分けられたら、そう言いたいことを皆よく理解していた。

 

 「ジェシン。何もかもお前に責任はないのだ。お前が私を責めるべきなのだよ、逆に。まだ少年の弟に辛い思いをさせたふがいない兄を責める権利はお前にある、ジェシン。」

 

 静かに言うヨンシンの瞳は、確かにどこを見ているかわからなかった。

 

 「まだ陰影とおぼろげながら輪郭は分かるのだよ。だからこうやって、日の光に影響されない夜、私は動き回ることができる。それにね、私はやはりムン家の男なのだよ。博士がそうおっしゃった。」

 

 「君が成均館に入ってきたころだ、ムン・ジェシン。その健康でしっかりした体。学問をし続ける能力を体力が補完できている。だからこそ君は優秀なのだよ。それはムン・ヨンシンにも言える事だった。確かに喘息などの事実はあったが、それを治癒するだけの元の強靭さというものを、君たち兄弟は父上からだろうか、引き継いでいる。だからこそ、彼は息を吹き返し、ここまでの回復を見せたのだろうと確信した。」

 

 

 博士の話はもう少し続いた。意識を取り戻したヨンシンは、徐々に体が動かせるようにはなった。しかし、視力はなかなか戻らず、体に麻痺はないが、筋肉は着かなかった。そして、喘息の症状は出ない代わりに、肺の動き自体が小さくなっているのが毎日の触診で判明し、息を大きく吸えない、吐けないことが分かった。内臓の動きも鈍く、食べる量は増えず、消化の動きも鈍い。腸の動きが感じ取れない時期が長かったのだという。今もたいして変わりはなく、食事も、水分も、ほんの少しずつとるようにしないと、胃が焼けるように痛み、体がむくむのだという。

 

 二度と元の体に戻れないことは、本人が一番承知していた。その聡明な頭脳と落ち着いた精神は以前と変わらず、一度なくしたと思った生命ですから、とヨンシンは世の中に役に立つことをしたいと望んだ。目が見えにくいから、読み書きに関する仕事はできない。本来なら、人に教えられるほどの頭脳を持つ男なのに、と惜しんだのは、博士だけでなく王様もだった。

 

 その頃、ヨンシンは博士によって密かに都の傍にその身を移されており、療養していた。チョン博士も成均館の博士として戻らねばならなかったからだ。それからしばらくしてジェシンやヨンハが入学し、一年が経つ頃、ヨンシンは博士を通じて王様に願いを出したのだ。

 

 ー懐かしい成均館。私が最も幸せだったのは、成均館で学問漬けの日々を送ったころでした。聖なる学問の府、しかしその頃も学問に没頭できない政治的な問題も持ち込まれており、それにふさわしくない者たちもあの場にいたことを私は憂えていました。きれいごとで済まない世の中であることは分かっていて、成均館も聖域ではないこともよく理解しています。けれど、心の底から儒学を学びたいと思う者たちのための場所でないといけないのも成均館なのです。私は。

 

 私の生は、そう長くはないでしょう。思いがけなくもたらされた短いい残りの命を、儒学を大切にする者たちのために使いたいのです。私を成均館の亡霊にしてください。そして成均館の恥辱になるものを見極め、排除する仕事を、私の最後の仕事として与えてくださいー

 

 「そうして密かに儒生たちを見守っていた。不正を行う者たちも、私のように無い罪をかぶせるわけにはいかないので、慎重に観察した。時間はかかったから、最初の一年ほどは何もしてはいない。その一年の間に、私が行動するために必要な通路などを工夫してくださったのは博士と一部の書吏だ。そうやっていたところに、イ・ソンジュン君、君とキム・ユンシク君が入ってきてね。私は君たちの成長を楽しみにしていたのだよ。そして前評判にたがわず、それどころか努力も人一倍の君たちを誇りに思うようになった、亡霊として。ただ・・・直接かかわることになるとは思わなかったのだよ。何しろ、私は成均館に相応しくない者を断罪するためにいるのだからね。だから、キム・ユンシク君と遭遇したのは本当に偶然だった・・・。」

 

 

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