㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。
ご注意ください。
中二坊に戻ると、確かにユニはいて、そして眠っていた。布団をしっかりとかぶり、ぐっすりと眠っているようで、扉際に寝ているにも関わらず、起きる気配はなかった。
三人は顔を見合わせ、ヨンハは静かに自室に戻り、ジェシンとソンジュンも黙って布団に潜り込んだ。眠りは浅かった。朝になったら、中二坊に戻った時に部屋に誰もいなかったことをユニはどう尋ねてくるのだろう、逆に自分たちが平素と同じようにユニにふるまえるのだろうか、という懸念があったからだ。薬房から戻る道々、チョン博士と話を終えるまで、今夜のことはユニには言わないと三人で約束したが、今、自分たちが部屋を空けていることを尋ねられたら、とソンジュンが心配を口に出していたのだ。コロ先輩はいい、朝帰りかも、と終始する前に二人で話をしていましたから、というソンジュンの恨みがましい声音に、仕方がねえだろ、とジェシンの不貞腐れた声が続く。こういう時、ヨンハは参加しない。腹芸が得意なのはヨンハだった。顔色も変えずにいつも通りふるまう事が出来る自信もあったし、一人部屋が別なのが最も気楽な点だったから。
どんなに困っても朝はやってきて、ソンジュンは早朝の習慣である読書のための時間通りに起きだしたし、結局ジェシンは起床の時刻までね落ちてしまった。ユニも合図を聞いたらちゃんと起きだしてきたから、よく眠れるように処方された、というちょっと引っかかった言葉にも心配はなかったのだと分かりほっとしたのだが、矢張りユニは起きてすぐ、眼をこすりながらソンジュンに聞いてきた。
「夜・・・どこか行ってた?厠?」
そんなことを聞いたら自分がいなかったことも聞かれると思わないのだろうか、とジェシンは目を覚ましてはいるが寝転がった状態でぼんやりと思ったものだ。
「え?厠は行ったけど、君もいなくてびっくりしたし、何なら戻ってきたら君がいたからまた驚いたよ。」
ソンジュンの落ち着いた声が聞こえる。まるで想定していたような返しに、考えたな、とジェシンは布団の中で苦笑した。
「え・・・え・・・えっとさ、寝付けなかったからさ、ちょっと散歩してた・・・。」
「俺が戻ってきたときはよく寝てたね。気が付かなかっただろう?」
「う・・・ん、そうだね、気づかなかった・・・。」
「今度そんな時は、散歩に付き合うから俺を起こしなよ、一人で暗い中をうろうろするのはよくない。」
「そうだな・・・俺が付き合ってやるよ。」
ジェシンはおもむろに起き上がって口を挟んだ。真ん中に寝ているので、ユニの方を向いているとソンジュンからの視線を背中にビシバシ感じる。悪いな、お前に出し抜かれるわけにはいかねえんだよ、とばかりに大きく伸びをしてやった。
「え・・・寝ているところを起こすなんて悪いよ・・・それに別に周りをちょっとだけ歩き回るだけだし・・・。」
「だめだ。ヨンハみたいな女たらしがお前みたいなちっこいのを酔っぱらって間違えて連れ込もうとするかもしれねえ。」
「どこかの誰かみたいに酒に酔ってけんかっ早くなる儒生が歩いているかもしれないだろう。」
「てめえ、なにあてこすってやがる。」
「誰とは言ってないですけど。」
負けじとジェシンの横から顔を出して参戦したソンジュンに応じてにらみ合う二人に、おろおろするユニ。とにかく顔を洗おう、とユニが桶を持ち出したのを機に、この話はうやむやになってどうにかごまかせた、と互いに口をつぐんだ。
それこそその夜、密かにチョン博士から呼び出しが来た。ユニがまた夜に出るつもりだったら、とソンジュンが心配したが、遣いに来たジュンボクは、今夜は大丈夫です、とやけにはっきりといった。キム・ユンシクが熟睡したのを見極めてからで構わない、という言伝だったので、様子をよく見てからヨンハを誘い出し、三人は薬房へ向かった。
薬房には、チョン博士が静かに座って待っていた。三人も黙って勧められたところに腰掛けた。しばらく黙った後、チョン博士はジェシンに視線を定めていった。
「ムン・ジェシン。少し君には辛い話になるかもしれない。落ち着いて話を聞くと誓ってくれ。」
そう言ってジュンボクに頷くと、倉庫の扉が開かれた。
そこには黒い儒生服を着た一人の痩身の男が立っていた。そして彼を見た瞬間、ジェシンが立ち上がった。
「・・・兄上!」