赦しの鐘 その112 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 昼餉を終え、ジェシンとソンジュンは連れ立って職場に向かった。男の食事の時間などあっという間だ。喋っているとはいえ、食い、少し話をすれば、休息の時間など特に決められていないが、仕事に戻らねばならない気になる。その辺りがやはり新人ではあるのだ。

 

 二人は研修がてら配属されている職場が近い。ヨンハとユンシクは昼餉を食べた庭の隅からはジェシン達と反対方向の建物に向かう。ヨンハはこういう風に皆が大体集まりやすい場所も見つけるのが得意で、いつもヨンハについていけば飯が食える場所にたどり着くと、他の三人は考えることもない。

 

 「・・・婚儀からお暇した後、ヨリム先輩に夜通し付き合ってもらいました。」

 

 突然ソンジュンが話しかけてきて、ぼうっとしてたジェシンは我に返った。無言でソンジュンを見やると、ご存じありませんでしたか、と問われて、

 

 「ヨンハはしゃべっちゃだめだと思った事なんだろ。あいつは存外口が堅いぜ。」

 

 と答えたジェシンに、知っています、とソンジュンは目を綻ばせた。

 

 「なんとなく・・・なんとなく落ち着かない心になっていたのを見抜かれたんだと思います。一緒に飲んでくれました・・・。飲んでいるうちにインジョンの鐘が鳴り、そのままそこで飲んで眠りました。」

 

 「優等生のイ・ソンジュンが朝帰りか。悪い仲間をもったと思われたんじゃねえか?」

 

 「母に心配をかけるなとは言われましたが、それ以外は何も・・・。でも俺、その時に聞いたインジョンの鐘の音がまだ頭に残っているんです。」

 

 俺もだ、とは言えなかった。その夜聞いた鐘の音は同じ音のはずだが、ジェシンにとっては幸福の始まり、出発の音だ。しかし、心を乱したソンジュンにとっては何なのか。

 

 「別にその音を聞いた瞬間に何を悟ったわけではないんです。けれど、以前、ユンシクに聞いた、彼の母上の鐘の音に対する怯えを思い出しました。その鐘の音から始まったユンシクたちキム家の苦難に、少しでも関わっていた父に、俺は苦情を言いました。人の道にのっとった行動をしたムン家は最大の幸福を今掴んでいる、と。正直、ユンシクの姉上を見たとたん、先輩のことをずるい、と思いましたから。それが俺の心の乱れなんですが。」

 

 ジェシンは黙って聞いていた。ソンジュンがこんなにもしゃべるのは珍しい。それだけ心に溜まっているものがあるのだろう。ジェシンは驚きや感動は、嬉しいことも辛いことも詩に書きなぐる。それと同じだ。

 

 「父と話しているときも、鐘の音は頭の中で響きました。あの夜、酔っていた俺は脈絡のない事をヨリム先輩に言ったはずです。けれど一つはっきりと覚えているのは、俺はキム・ユンシクの友人だ、と何度も胸に言い聞かせていた自分がいたという事です。過去に何があろうと、俺が見つけて俺が友人になりたいと望んで、そしてこうやって共にいることのできる間柄になることができた、という事です。それは運命でも何でもない。鐘の音にだって左右されない、俺が日の光の中で手に入れた友情だという事なんです。」

 

 ユニの顔を思い浮かべる。確かに、父が幼子のことを案じて連れ帰ってきたのだから、ジェシンが選んだことではなかった、ユニが妹のようにムン家で育ったことは。それこそ運命だと皆は言うかもしれない。けれど、場所は選べなかったけれど、そこで懸命に成長したのはユニの意志、そしてそんなユニを妹として可愛がり、慈しみ、そしてやがて一人の娘として見るようになったのもジェシンの意志だ。意志がなければ起こらなかったことは沢山ある。それらの合間に鐘が響いたこともない。そう日の当たる場所で、ちゃんと選択してきた。

 

 「それでも、自分のその時の選択で、今回俺が少しだけ思い悩んだように、先の誰かが心を痛めることがあるかもしれない。避けられなくても、納得できるようちゃんと生きていたい、そう思いました。俺にとってはあの鐘の音は、自分の戒めの音なのではないかと思うのです。」

 

 変な話をして申し訳ない、と言い、ソンジュンは自分の職場へと道を分かたった。その後姿はまっすぐと背筋が伸び、何の迷いもないように見えるのに。

 

 それでも、その迷いは後ろめたいことなど何もないのだ、ソンジュンという男は。そのまっすぐさに、ジェシンは自分の友人がいかに素晴らしい男なのかを再認識し、ユニに少し話してやろうと決め、自分の職場に足を速めた。

 

 

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