。㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。
ご注意ください。
その頃、ジェシン達四人は、遅い昼餉の弁当を共にとっていた。ヨンハはマメな男で、勿論四人がいつも同じ時間に休息をとれるとは限らないと分かっていても、いつも誰かを誘うことを厭わない。そして誰がどこで執務しているかをなぜかよく把握していて、四人そろわなくても一人、二人は必ず捕まえて一緒に座っている。おかげで四人は王宮に出仕しても四人ひとくくりで扱われていた。
「そう言えばテムル~、お前はコロの義弟になったんだぞ。呼び方は変えないのか?」
おこわを丸く形づくったものを咀嚼しながらヨンハが尋ねると、こちらは雑穀交じりの飯におかずが載せられたものを食べながらユンシクが答えた。
「分かってるんですけど、つい今まで通りに呼んじゃうし、慣れないから照れちゃう・・・。」
「そうだね、君はコロ先輩の義弟なんだね・・・。」
とソンジュンが少しうらやましそうに白い飯を口に入れた。こちらは簡素そうに見えるが、白飯の横には牛肉を辛く煮付けた贅沢なおかずが詰められているのが見える。
「呼び方なんぞ別に何でもいい。変える必要もねえぞ。」
ジェシンは綺麗に詰められていたはずの白飯と山菜と小魚を炒めたものや炒り卵を全部混ぜてしまって掻きこんだ。そして続くソンジュンとユンシクの会話をぼんやりと聴いた。
「ええ~、ソンジュンもコロ先輩の義弟になりたかった?」
「う~ん・・・それも魅力的だけどさ、君と縁戚になったコロ先輩の方がうらやましいかな。」
ヨンハがけらけらと笑っている。ソンジュンの本音ではあるだろう。確かに、ヨンハは婚儀の晩、初めて会ったユニを見て衝撃を受けたソンジュンの心中を聞いているが、半分以上は今の会話が全てなんだろうな、と腑に落ちた気がしていた。ソンジュンにとって、ユンシクは本当に初めての友人で、それも自分が望んで手に入れた親友で、胸の中を一等大きく占めている存在なのだ。ユニがユンシクとよく似ていたからこそうらやましいと思ったのだろうし、ユンシクの人となりをユニに投影したのだろう。本当のところは、キム・ユンシクと婚儀を通してでも縁続きという立場を手に入れたことがうらやましいのだ。自分がユンシクと一番近いところにいたい、それがどんな関りでも、というのが本当の気持ちだろうとヨンハは思う。
ジェシンは戯れるように会話するユンシクとソンジュンを眺めながら、この数日、頑張ってジェシンのことを『旦那様』と呼ぼうとするユニのことを思いだした。二回に一度は『お兄様!』と呼ぶユニ。そして慌てて言い直して顔を赤くする。ついでにジェシンも自分の頬が熱くなるのを実感して二人で照れる。それをにやにやと屋敷の誰ぞが見ている。そんな事の繰り返しを、飽きもせずやっている。
夜、閨を共にするようになったこと、以外にあまり生活の変化はない。ただ、ユニは髪の結い方が既婚者として変わったせいか、急に娘から女になったように見えることがあって、眼を凝らしたいような背けたいような複雑な気持ちになる。ユニを妹だと思い込んでいるのは、お兄様呼びが抜けないユニと同じようなものだ。それに、ユニが大人びた雰囲気を出し始めているのは、夫と閨を共にし始めたせいなのはどこかで分かっているのに、自分のせいだとどうしても実感が湧かないのだ。勝手に大人になりやがって、と思ってしまう。そんな外見の変化以外は、ユニはまだ 「『お兄様』・・・じゃないわだだだ『旦那様っ』!」とやっている、可愛い様子を見せている。下人や下女もにやつくし、たまに母にも笑われる。二人ともだ。そんなくすぐったい夫婦生活の始まり。
「う~わ!見ろよ~・・・あのだらしない顔・・・何を思い出してるんですか~コロ!」
物思いから我に返ったのはヨンハのからかい声が耳元で響いたからで、は、っとすると、にやにやしたヨンハと目を丸くしてジェシンを見る二人の後輩の視線が痛い。
ジェシンは黙ってヨンハの頭に拳骨を落とし、弁当箱の飯の残りを掻きこんだ。