赦しの鐘 その96 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 内棟に新たに設けられたユニの部屋には、ユニの実母が結納で納められた布で作った真新しい新郎新婦の上下の肌着や、ユニが婚礼の後挨拶をしたり受けたりするときに着用する初々しい紅色のチマと見事な刺繍が施された絹のチョゴリが揃えられた。目がお悪いのに、とユニは涙ぐんでいたが、結納が行われてから大科が終るまでの間の数か月、少しずつ縫ったと実母はほほ笑んだ。ユニが時折訪問していたとはいえ、南山谷村で、大科の準備のために成均館から戻らず学問にはげむユンシクもいない一人の家、日のある間、作業をする時間はたっぷりあったのだろう。縫物が苦手なユニと違い、目が悪いとは思えない見事に目の揃った縫いあがりと、きれいな梅の花の刺繍の仕上がりは、ジェシンの母も感心するほどのものだった。

 

 ジェシンは官吏のひよっことして、研修の日々を過ごしていた。正直、婚礼関係は母が仕切っていて、ジェシンは何もすることはなかった。婚儀に招待する、個人的な客について聞かれただけだった。親戚、老論の者などは父の領域だ。未だムン家の大黒柱は父なのだから、婚儀という家の大事に置いて、家のことを考えて招く客を選ぶことは父の意向が一番なことに変わりはなかった。

 

 ユンシクは花嫁の親族だから別として、友人として呼ぶのはソンジュンとヨンハぐらいのものだった。小論の子弟が行く学堂時代からの付き合いの者たちは、どうせ父親と一緒にやってくるだろうと思ったし、一人に確認したらやはりそうだった。だから会えば当日は足労をかける、ぐらいの挨拶をしてすんでしまった。何しろ招待はその家には行っているので、わざわざジェシンが改める必要はなかったのだ。おかげでジェシンは新人官吏としての生活に集中できた。

 

 ジェシン達は、とても目立つ新人だった。成均館時代から花の四人衆として衆目を集め、四人そろって大科に合格し、そのうちの二人は甲科合格、二人も乙科で上位、見目麗しい若者で、儒生の時から王様が度々出仕を楽しみにする旨を口にするほどの気に入られよう、つまり、いい意味でも悪い意味でも注目を集めていた。ソンジュンとジェシンは父たちの力で、ヨンハは金をうまく使って立ち回っていたから目立つ嫌がらせはなかったが、ユンシクはそこそこ聞こえる陰口や連絡を回さないなどの嫌がらせを受けていた。それを蹴散らす方がジェシンには忙しかったが、研修で部署を分けられるとそうもいかなかった。それだけが心配だったのに。だが、配属された部署の上司が、ユンシクの書類作成の実力を認めて重宝したため、その心配も少しは減った。そんな中での婚礼の日だった。

 

 ユンシクの姉がジェシンの花嫁になること。これも、主に小論のものの間での陰口の一つだった。最初からこれを狙っていたのだとか、亡くなったヨンシンを含め二人の子息がいたからどちらでもよかったのだとか、ユニの耳にいれたくない話はごまんとあった。言わせておけ、と父は言うが、ジェシンには耐えがたい事だった。ユニとジェシンの愛情を比べれば、絶対に自分の方が重い自信があったからだ。こちらが惚れぬいて頭を下げてきてもらう妻だ、そう言いたかったが、それはこれからのお前の仕事ぶり、態度が示すことだ、と父に久々に叱られた。ユニとの婚儀で浮かれていたのは父も同じで、機嫌も結構よかったので、久しく叱られることがなかったのだ。

 

 「儂も言っている。お前にはもったいない娘で、うちで育ったとはいえ、頭をキム家の奥方に下げていただく大事な花嫁だと。その言葉をお前が証明すればよいのだ!」

 

 そう怒鳴られて、不貞腐れて戻った部屋。ユニはその日キム家に泊りに行っていた。婚礼の前日に母と共にムン家に戻り、そして花嫁となるのだ。後数日、ジェシンが待ち焦がれた日が来る。

 

 ユニはキム家に行く前、ジェシンに願いを言っていた。ユニが読み、清書をしているジェシンの詩を、母にいくつか見せてもいいか、と。ジェシンにとってはもうユニにやったものだ。少し気恥ずかしいが、かまわない、と返答をした。ユニが何のつもりでそうするのかはわからないが、それでユニの母の無聊が慰められるなら何でもいい、と思った。

 

 俺は、ユニに幸せにしてもらうのだ。だから皆、見てろよ。

 

 一人の部屋で、ただそれだけを思っていた。

 

 

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