赦しの鐘 その89 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 殿試が終れば、もう成均館にいる意味はなくなる。会試合格の時点で官吏になることは決定しているからだ。長い試験の一日が終ったその夜、四人はそれぞれの持ち物を粛々と片付けた。

 

 中二坊三人は荷自体が少ない。着替え数枚と自前の書物数冊。くるんでしまえば部屋に残るのは元からある小机人数分と、今夜使用する夜具だけだ。ヨンハの部屋は荷が多くばったんばったん音がするけれど、どうせ使用人が片付けに来るのが分かっているので放っておけばいい。

 

 持ち込んできた酒を茶碗に注ぎ、三人は目の高さまでそれを上げ飲み干した。成均館での儒生の日々が終る。その記念だ。

 

 「先輩はすぐにご婚礼をお上げになるんですか?」

 

 すぐに頬を赤くするソンジュンが聴いてきた。ユンシクの姉、ジェシンと兄妹同然のユニと婚約をしたことは、ソンジュンだけでなくすでに皆の知るところだ。ただ、大科でそれどころではなかったのと、ソンジュンは元々そういう俗事にはあまり口を出さない人間なので、会話の機会がなかっただけだ。ただ、部屋の中でユンシクとこまごました話の進み具合をすることはあったので、経緯は大体把握しているはずだった。

 

 「お前だって、降るように縁談が来るぞ。儒生じゃなくなるからな。」

 

 ソンジュンが学問専一を盾に縁談を断っている話は有名だった。そのおかげでハ・インスの妹との縁談も断ったのだから。ハ家の事件に巻き込まれる要素が減ったのだ。しかし、現高官の中でも最大の力を持つ父を持つ青年だ。本人の容姿も端麗で、しかも若くして大科に合格する頭脳のお墨付き、同じ派閥の者なら、その将来性だけでも縁を繋ぎたいと思い、娘を差し出すに違いない。

 

 「面倒ですが・・・母に任せようと思っています。父は母に話しを通した時点で承認しているのも同じですから。」

 

 でも、とソンジュンは少し上気した顔でジェシンを睨んできた。

 

 「うらやましいです・・・ユンシクの姉君をお迎えになるなんて、ずるい・・・。」

 

 「んだよ・・・てめえはユニに会ったことないだろうが。」

 

 「ユンシクの姉上だからうらやましいんですよ。確かに会ったことはありませんから、それぐらいしか基準はありませんけれど、ユンシクが慕う姉君なら、素晴らしい人に間違いないじゃないですか。それに彼と親戚になれるのもうらやましい・・・。」

 

 ユニに直接憧れたのではないと分かって、ジェシンはほっとした。正直、どこかでユニを見た、惚れた、なんぞ言われた困るし、ソンジュンは大層娘に人気のある青年だ。貴公子であり、容姿端麗頭脳明晰。これ以上褒める言葉はでて来やしないぐらい完璧な男だ。ユニがぐらりとでも心を動かされないとも限らない。ジェシンが派閥の恨みを超えても友人となった男だ。心根も正しい。

 

 「そこかよ・・・。だがお前はシクの一番の親友の座に収まってるじゃないか。満足しとけよ。」

 

 そういうと、ソンジュンはまんざらでもない顔をした。

 

 「ねえ、ユンシク。俺は君の一番の親友だよね。」

 

 「へへ、僕はソンジュンが親友だと思ってくれてることが本当にうれしいよ。僕こそいつまでも親友でいたいな、君と。」

 

 ユンシクも締まりのない顔で笑った。正しく酒が回っているらしい。仕方がない。この半年以上、酒など一滴も体に入れていない上に、ソンジュンとユンシクはまだまだ飲み慣れていないほどに若い。ジェシンだって茶碗一杯で少しいい気分になっている。二人はなおさらだろう。

 

 やり切ったからだ、と言える。ジェシンは今日の殿試で力を出し切った。ソンジュンもそうだろう。ユンシクはにこにこ笑いながら舟をこぎ始めている。結果はまた7日後の放榜礼だ。その時に、俺たちは大人になる。

 

 夜は更け、そして日が昇る。

 

 四人はそれぞれ博士たちに挨拶をし、荷を手に出ていった。ジェシンとソンジュンは下人がやってきて布団を担ぐ。ユンシクの布団はソンジュンからの借り物だった。あっさりと門を出ると、後ろから馬二頭もの荷になったヨンハと下人がわあわあとやってくる。

 

 ジェシンは前を向いた。徐々に分かれていき、屋敷の近くになると足早になる。ユニが待っている。俺を待っている。

 

 

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