赦しの鐘 その88 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 年が明けて暦は春となり、名ばかりの極寒の中、大科は行われた。会試、と呼ばれるこの試験で、合格者は決まる。そこでジェシンは5位であった。

 

 合格者を麗麗と書き出した高札の前で、合格に喜ぶ者たちと、肩を落として静かに去るものとに分かれる。ジェシンはそのどちらでもなかった。そしてそれは隣に立つソンジュンも同じだった。

 

 ユンシクとヨンハは手を取り合って喜んだ後に、二人の様子に気付いた。ヨンハなぞ、ゲン担ぎのために、過去の合格者の下履きまで買い、着こんで臨んだ試験だ。ユンシクはかなりの若年での挑戦だったし、合格自体がまず手放しでの喜びだったのに、それなりに中の上ぐらいの成績で受かっていたから余計にうれしかったのだ。なのに、二人よりも上、上位の上位で受かっているソンジュンとジェシンの渋い顔には首をかしげるしかなかった。ソンジュンなど、三位だというのにだ。

 

 二人は黙って踵を返し、合格を称える成均館の仲間におざなりに答えながら成均館に戻り始めた。どうしたんだよ、と声を掛けるヨンハに、勉強の続きだ、と一言返したジェシン。ソンジュンも否定しない。

 

 「まだ殿試が残っています。気を緩めている場合じゃない。」

 

 ソンジュンもそう言った。会試は合格者を決定するため。そして合格者の最終席次は、殿試と呼ばれる最終試験で決まるのだ。そしてそれによって、最初に与えられる官位に差が出る。試験の結果が、出世の第一歩となるのだ。

 

 足早に成均館に戻る二人に、ヨンハは苦笑した。ユンシクは、二人ともすごいね、と正直に感心している。国で三位と五位の成績だ。何の不足があるのか、というところだが、この秀才二人には不満の成績のようだった。こればかりはヨンハとユンシクにはわからない心情だった。

 

 「まあ、合格は確かだし。ああ!そういえば、俺たちも大科合格者だからさあ、下履きが売れるぞ~~!それに、お前たちの中二坊なんか、誰の下履きだとしても、みんな合格者の持ち物じゃないか~!」

 

 そういうと、ジェシンとソンジュンの脚がぴたりと停まった。ユンシクは意味をしばらく考えてから、真っ青になり、真っ赤になった。

 

 「僕・・・自分の下履きを誰かにもたれるなんて嫌だよう・・・それに僕の下履きや肌着は、母上が悪い目をかばって一針一張り縫ってくれたものだから、誰にも上げたくない・・・。」

 

 それを聞いて、ジェシンは猛然と走り出した。ソンジュンも負けじと走り出す。ユンシクも懸命にその後を追った。何しろ、施錠なんかしない清斎の部屋なのだ。勝手に入る奴だっているだろう。ソンジュンは潔癖な人柄だから、自分のものを触られるのが嫌だし、ジェシンは大体において自分のことや物に構われるのが嫌いだ。それに、あんな悲しそうなユンシクを放っておけるわけがない。ソンジュンにとってユンシクは親友だし、ジェシンにとってはまもなく義弟となる相手なのだ。

 

 「あは!コロはあれだなぁ、熱烈な詩を勝手に見られることになるよなあ・・・!」

 

 いくつか隠すように置いてあった詩。勝手に呼んだのはヨンハ達だが、金庫に入れているわけでもない紙、ひらひらと落ちてしまうだろう。婚約話は既に広がっていた。誰かを恋慕う、美しい詩の数々は、簡単にその相手を想像させてしまう。

 

 「・・・それはっ・・・いやだよなあ~・・・コロは・・・はあはあ・・・。」

 

 すぐに息が上がってしまったヨンハは、ヨタヨタとかなり遅い速度で、中二坊三人の後を追った。

 

 

 中二坊前の、下履きを巡る攻防は、最後に瀕死の状態でたどり着いたヨンハの采配によって、ユンシク以外の下履きを提供することによってどうにか片を付けた。勿論ちゃんと値もつけた。その騒ぎさえ収まってしまえは、ソンジュンとジェシンはもう講堂には行かずに、中二坊で猛然と最終の追い込みに入った。ユンシクは横で静かにその真似をした。殿試は7日後なのだ。すぐに来る。この試験で、本当の席次が決まる。

 

 そして、四人の成均館儒生の日々も終わるのだ。

 

 

にほんブログ村 小説ブログ 韓ドラ二次小説へ
にほんブログ村