赦しの鐘 その87 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 話が内々に決まってから、家同士では婚約のやりとりを正式に行い、結納なども勝手に行われた。ユニは屋敷にいたり南山谷の母のところにいたりして、婚儀に際しての約束事の行事の数々を経験していたが、ジェシンは基本成均館にいてその報告を聞くばかりだった。何しろ大科に受からねばならない。どんな優秀な儒生でも確約されないその合格率の低さは、成績優秀なものが集まる成均館の儒生でさえ恐れるほどだ。国の中には、隠れた秀才というのは常にいて、地方の小さな書院から思いもかけない人材が登場することは稀ではなかった。いくら成均館で頭一つ飛び出ている成績を取り続けている、ソンジュン、ジェシンでさえも油断はできない。

 

 二人は、その家の威信と自分自身の誇りをかけて、大科を「優秀な席次」で突破しなければ意味がなかった。受かればいいわけではないのだ。目立つ地位にいる父親のせいでもあるし、幼いころから優れていると評判を取っていた自分自身の面目のためでもある。ジェシンにとっては、ユニを堂々と娶るために、自分が胸を張る状態でなければならなかった。ジェシンにとって、自分自身の力で勝ち取れるものなど、儒生としての集大成、科挙の合格、それも成績優秀での合格しかないのだ。

 

 ユニにふさわしい男でありたかった。人目に晒さないよう箱入り娘としてムン家はユニを育てた。だが、ユニはジェシンや、亡き兄ヨンシンと共に学問をする場に居て楽しめるほどに賢い娘だったし、眉目秀麗な美しい娘だった。養い親であるジェシンの両親に良く仕え、聞き分けのいい、素直な子供でもあった。可愛がる両親や兄たちには甘えてわがままも多少は言ったが、それも可愛いものだった。よそからの預かりものである自分という存在を意識していたユニ。遠慮が全くなかったわけではないだろうが、それを隠すほどには賢くふるまったし、ジェシンが思うに、遠慮をさせる暇もないほどかわいがった母と父のおかげで、ユニは遠慮を捻じ曲げずに素直に育つことができたのだろうと思う。キム家の血を引き、人に学問を教えるほどであった亡き父の才、両親からもらった真面目な気性、美しい容姿、それを奢らずに懸命に育ったユニは、ジェシンにとって完璧な娘だった。そんな完璧な娘を貰うためには、自分だって少しは胸を張れる状態でなければならない。

 

 毎夜、講堂での深夜までの試験勉強が続いた。夏場は暑さをしのげる広さが良かったが、秋が深まるにつれて、今度はその寒さのおかげで寝てしまわないようにするために講堂は勉強の場になった。日ごとにその時刻は伸びていく。最終明け方近くまで取り組み、束の間の睡眠の後講義に出、そして夜は再び講堂で机に向かう。ジェシン達大科を受ける儒生たちの生活をジェシンの父は知っていたからこそ、婚儀に関わる手続き上のあれやこれやにはジェシンを呼ばなかった。

 

 「あ奴はここに居なくても、気が変わることなどあるまい。」

 

 結納の支度が整い、キム家へ持参するとなった前日には、報告をする執事に父はそう言ったものだ。ユニは一足先に南山谷村に行って、泊っている。母と共に結納を受け取るのだ。

 

 「お嬢様は本当にしっかりしておられて・・・。キム家のご母堂様も、とうとう都に居を移すことを承諾なされそうですよ。」

 

 執事は南山谷村までの距離を思い、少しほっとした気分でそうつげた。ユンシクも大科を受けるのだ。受けて、本当のキム家の当主となる。これもユンシクがキム家の誇りをかけているものだ。そして都に戻る。どちらにせよ南山谷から通うのは無理だから、こればかりはユンシクのために共に戻ってやってほしい、とユニが説得したのだ。

 

 母がインジョンの鐘の音に怯えが残っていることは良く分かってのことだ。けれど、自分自身を鍛え、必死に家の再興を勝ち取ろうとしているユンシクが結果を出したら、それを力にして都に凱旋してほしい、とユニは言った。ユンシクがインジョンの鐘の音から始まった苦難に終止符を打つことになるのだ、と。怖れるものを克服するのだ、と。克服した息子が共に住むのだから、大丈夫だと。

 

 「前を向いていこうとしなければ道は見えない、そう言ったそうだな、ユニは。」

 

 「はい。子に教えられるばかりだ、と先日お遣いに参りました時に、お話しくださいましたよ。」

 

 こうやって二人の道は決まり始めていた。だから、後は大科のみ。寒さは厳しくなりつつあった。

 

 

にほんブログ村 小説ブログ 韓ドラ二次小説へ
にほんブログ村