赦しの鐘 その83 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 講義後、ムン家へ向かいながら、ユンシクはジェシンに言った。

 

 「先日、サヨンと姉上の内々の婚約のお申し出を受けましたので、母の返事を持って僕がムン大監様に面会いたしました。」

 

 ジェシンは数歩歩いて突然立ち止まった。ぐるりと振り向き、ユンシクを見下ろした。数歩歩いている間にユンシクの言う意味が分かり、見下ろしている間に、咀嚼し直したのだろう、いきなり肩を掴まれて、ユンシクはびっくりした。

 

 「知らなかったんですか?」

 

 「・・・落ち着いたら話は進めると聞いてはいたが、いつの間に・・・。」

 

 「この間の帰宅日に実家に戻った時に母から書状を見せられました。返事は急がないとのことでしたが、再度お遣いの方に遠路をきていただくのは申し訳ないからって、僕が返事を預かったんです。」

 

 「いつ行きやがった、親父に会いに。」

 

 「帰宅日、僕姉上に会いにお屋敷に寄るでしょ?その時に執事さんに大監様の在宅を教えてほしいと頼んでおいたの。そしたらお知らせくださったから、貸本屋に行くって言って会いに行ったんです。」

 

 帰宅日は、ユンシクはよほどのことがない限りムン家に寄る。そして、ユニに会い、ユニに健康を気遣われ、母の話をして、ジェシンと共に成均館に戻るのが習慣のようになっていた。特に、ハ家の事件の前後は、ムン家に関わるものだからということで、ユニはせっかく行き来するようになっていた実家の母の元へ行くことを、安全上禁じられていたので、ここ最近、解禁されたからと言って一度ぐらいしか行けてはいないだろう。その間は、ユンシクからの母の報告が頼りだったのだ。

 

 「サヨンもご存じのことかと思ったんですけど、僕、流石に母からの返事などは、きちんと自分でしなければと思ったから、自分の段取りでしたんです。サヨン、どこまで知ってるの?」

 

 「・・・とにかくユニと俺の婚儀をお前の母上にお願いする、とだけは聞いていた。時期は・・・その時はまだ親父は忙しかったから、落ち着いたら、ということだったんだが・・・落ち着いていきなりかよ、それも俺には何にも言わずに・・・。」

 

 くそ親父、とぶつぶつ文句を言うジェシンに、ユンシクは叱られなかった、とほっとした。なぜ黙ってた、なんて言われるかと思っていたから。

 

 「で・・・なぜ今言った。」

 

 さすが、とユンシクは苦笑しそうになった。見当違いの方に文句言っていると思っていたのに、いきなり本題に戻された気分だ。

 

 「僕、今日は本当に、姉上に西掌義の言伝をお伝えするためだけに行くんです。でね、サヨン、姉上はまず、サヨンとの婚約話があることすら知らないんでしょう?」

 

 「そうだな・・・。」

 

 ユニはずっとムン家に居て、ムン家の両親の傍に居る、勿論キム家の実母も大事にする、と言い放っていた。そこにはジェシンも当然存在しているのが当たり前の話で、だ。そこに不思議を感じないユニの方が不思議だとユンシクは思っていたが、今更ながら気づいた事がある。ユニだけがそう思っているのではないという事だ。

 

 ユニにとってそう言い切るだけの根拠というか感情は、周囲が同じ気持ちだからであることに他ならない。ユニに傍に居てほしい、ユニが家族の中から出ていくのは嫌だ、そういう感情をユニは常に受け取ってきたのだ。ムン家の両親から。屋敷の下人下女たちから。そしてジェシンの、ユニは自分の傍に居て守られていればいい、という気持ちも素直に受け取り、それに甘えていいのだとちゃんと理解して、そして言い放ったのだ。ユニにとって、関係の名が変わることはあっても、ムン家でジェシンの傍に居ることに変わりはないと受け止めるに違いないのに、ジェシンの両親もジェシンもユニには言わずに来ている。こればかりは、ユニ本人より周りの方が臆病なのだろう。

 

 「サヨンのお母上様が当時守って下さり、姉上が嫌な思いをすることはほとんどなかったとは聞いております。けれど、いい思い出ではないでしょう。僕にとっては本当に情けない思いしか浮かんできません。サヨン、話の後、僕は先に帰りますから、姉上の傍に居てあげてください。そして、本当の、幸せな婚儀が姉上に待っていることを、サヨンの口から教えてあげてほしいのです。」

 

 大監様には許可を取っております、と言ったユンシクは、普段よりずいぶんと大人びて見えた。

 

 

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