赦しの鐘 その81 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 年が改まり、一年後には大科が行われると発表されると、ジェシンの両親は動いた。ジェシンは二十歳を超えるし、ユニも十分婚儀の適齢期に入る17を迎える。両親は落ち着いて話を進めた。

 

 当然、キム家のユニとユンシクの母親にまず相談が行った。丁寧に、けれど熱を込めてユニをジェシンの妻として迎えたい、そう願った。理由などいろいろ考えられる。第一に、自分たちがユニを手放したくないという想いがあることも正直に伝えた上、一番大事なことをきちんと説明した。

 

 ジェシン本人の意向についてだ。

 

 妹として可愛がってきた相手ではあるが、はっきりと血縁関係のない娘であることを知っていたうえで、男女に起こりうる気持ちの変化があった後でも、兄妹の則を超えずにいたこと。ユニの意向を聞かずして、自らの気持ちをユニに押し付けるようなことをせずにいる事。けれど、一生をかけて妻として、家族として共にいたいと切望していること。これらを踏まえて申し入れる、とユニとユンシクの母には伝えた。ユニには母の了承が得られたら初めて話をするとも付け加えて。

 

 果たして、返答は『諾』であった。その返答はユンシクが代筆でもたらしたが、母からのその書状を自ら持ち込んで、ジェシンの父と相対したのも、若干16歳のユンシクだった。たった一年成均館に通っただけで、随分とユンシクは大人びて、地位のある人の前で震えていた放榜礼の時とは大違いだった。それでも緊張に頬を染めたユンシクはいたが。書状をジェシンの父が読み終わるまで静かに待ち、そして話し合いを『当主』としてこなしたのは立派だというべきだろう。

 

 「そこに母が申しておりますように、姉の思いを大事にしてくださるならば、願ってもないご縁だと、僕も思います。」

 

 「そこだ、ユンシク殿。」

 

 ジェシンの父は丁寧にユンシクに尋ねた。

 

 「君から見て、ユニはどうなのだろうか・・・いや、ジェシンとは仲睦まじくいるが、儂たちはユニの気持ちを信じているとはいえ、幼い時からの二人のことを見てきているからこそ、それが兄妹の情愛の域を出ないのではないかとも少しだけ危ぶんではいる。」

 

 ユンシクはにっこり笑った。

 

 「姉は・・・先輩のことをお好きでしょう。もう、兄妹の感情も、家族としての感情も、それから一人の殿方に憧れる感情も、皆一緒になっている気がします。分けられるわけがありません。姉にとって、先輩は今申しましたことのすべてなのですから。」

 

 サヨンは、とユンシクは思い出す。『世界』と言った。『ユニは俺の世界だ』。それは、もう何にも分類できないほどの感情の源があるからだ。何を見ても、感じても、ユニを思い浮かべる、比べてしまう。特に美しいものはすべてユニに通じてしまう。その思いを、ユンシクは書き散らされた詩の中に見てしまった。中二坊に隠されてあったものでも数編あったのに、ヨンハに言わせれば、屋敷の自室には山とあるのではないか、とのことだ。成均館文集に納められた、美しく韻を踏み、故事からの引用も鮮やかな、情景が目に浮かぶような見事な完成した外向き用のものではなく、感情に任せて書いたからか、乱れた字体、どこか整わない形、けれど思いつくまま感じたことを表す言葉を、字を選んで書いてけしてまた書いてを繰り返した後の残る未完成のあの詩が、いったい誰を思い浮かべて書いたのかなんて説明もいらない。そんな思いを、口では伝えられずとも、態度で、視線で、守り包むその温かく熱い気持ちで受け取ってきたに違いないユニ。その上でずっと傍に居ると断言したユニ。ユニにとって自分を導き、守り、けれど自分がいなければ詩すらかけなくなりそうな兄であり家族であり、そして一人の男、ジェシン。その彼から離れるわけなどない。

 

 「どうぞ、姉にお話しください。母上様からでも、先輩からでも・・・ああ、でも、直接先輩にお気持ちをぶつけていただいた方がいいのでしょうね。回りくどいことをせず。」

 

 その口から、直接詩を奏でていただきましょう。

 

 

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