赦しの鐘 その77 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 「あの・・・お聞きしていいですか?」

 

 屋敷と成均館の短い距離を考えたのか、ユンシクは歩き出してすぐに口を開いた。

 

 「・・・なんだよ。」

 

 「姉上のお言葉です。姉上は訳の分からない子どもではないのですから、これからの自分やサヨンの身の変化を分からないわけはないと思うんですが。」

 

 ユニは無邪気だった。ムン家に自分はずっといるのだ、母の傍に、ジェシンと共に、そう当たり前のように言い放った。まるで幼い女児のように。

 

 「ああ、ユニは賢いぞ~。学問に専念させればお前なんぞ敵わねえと思うな。俺もあぶねえ。下斎生なんか足元にも及ばねえ。」

 

 「そういう事ではないです・・・。」

 

 はあ、とわざとらしくため息をつくユンシクに、はっきり言え、とジェシンは言った。もう覚悟はできていた。まぜっかえした自分も悪いが、照れくさくてやってられないだけだ。

 

 「妙齢になった娘が・・・。」

 

 「嫁にも行かず実家に居続けるという事は、よほど理由があると思われる。病持ちなのか、どこか体に不自由があるのか・・・醜女なのか・・・。」

 

 はははっ、とジェシンは夜空に向かって笑った。ユニにそんなうわさ、立てさせるわけないだろうが。この俺が。我が両親が。情を傾けて、注いで育てた娘だ。愛娘だ。預かりものだというものもいるだろう。そんな事関係ない。我が娘わが妹、愛しい家族として俺たちは共にいたのだ。

 

 「俺がユニを傍に置くという事は、俺とユニが夫婦になるという事だ。俺はそう解釈しているが。」

 

 ユンシクは目を見開いてジェシンを凝視しているようだった。歩きながら、夜の暗い道で。淡い星の灯ではたいして見えはしないだろうに。ジェシンの表情を探るため、真意をはかるため。馬鹿め。こんなこと、冗談で言える男だと思うか。ヨンハじゃあるまいし。

 

 「姉上は・・・サヨンと同じ解釈をして・・・いるでしょうか。」

 

 「分からねえ。」

 

 そこもきっぱりと言ったジェシンに、ユンシクは転びかけた。おっと、と腕を掴んで支えたジェシンに礼を言って、ユンシクは体勢を立て直すと、再び歩き出しながら、はあ、とため息をついた。

 

 「どうしてそんなに自信たっぷりなんですか・・・。」

 

 あ、とうなったジェシンは、少し考えた。一つには、両親がこの話を支持している、という事だ。支持どころか言いだしたのは両親の方だったのだから。また一つには、ジェシン自身がユニ以外に婚姻の相手は考えられないからだ。ユニが全てだ。家族として、妹として、女として。ユニと共に成長し、そしてユニへの気持ちも育ててきた。守るべき妹が、守るべき妻に名を変えるだけだ。そこの違いは、ジェシンにとって何の齟齬もない。

 

 そして最後に一つ。ユニはジェシンを体中で慕っている。それを知らずに簡単に言えるか。妹として甘えているだけではない。ユニはジェシンの学問や武への才を尊敬し、憧れ、全てをジェシンの存在で満たしている。ジェシンの部屋にいる時のユニは、ジェシンの香りに包まれて安らかな笑顔を浮かべる。俺たちはお互いが好ましい。好ましすぎて他のことなど目にも入らない。これは誰に言ったって分かってはもらえないだろう。ただ、両親には理解されていた。ジェシンの両親は自分たちの寂しさだけのためにユニの行く末を勝手にかえる人たちではない。何よりもユニの幸せを優先するはずだ。その彼らから見ても、ジェシンとユニは一つなのだ。寄り添って生きていくべき対に見えるのだ。

 

 「分からねえけどな、シク。けど分かるんだ。」

 

 そう言うと、ジェシンは立ち止まった。必死について歩いていたユンシクは、またつんのめりそうになった。

 

 「いずれ、お前と、お前たちのお母上に新たな縁を結び直すことをお願いするだろう。その時は頷いてくれ。お前たちの下にまともにユニを返さないままになるだろう。それでも頷いてくれ。ユニが、幸せがここにあると俺の求婚に頷いてくれたなら、何も言わず、お前も頷いてくれ。」

 

 暗がりの広がる道の真ん中で、ジェシンはユンシクに向き直った。

 

 「ユニは俺の世界なんだ。」

 

 

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