赦しの鐘 その76 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 「僕の病のせいで、姉上を借金の形にするという愚かなことを起こしてしまいました・・・。」

 

 たった三年ほど前の話だ。ユニだってうっすらと知っている。キム家の親戚が親切ごかしに貸してくれた金の出所がハ大監で、それはユンシクがかわいらしい少年だったものだから、人に預けられている姉も美しかろうと、ハ大監に取り入ろうとして仲介の役を買って出たその親戚が仕組んだことだった。その親戚はムン家にまで来た。ユニを花妻に出せ、と。しかし、ムン家はハ大監にだってものが言える家だった。元はと言えば、キム家が主を失い今のように窮乏に喘ぐようになった原因がハ大監だからだ。その上、その償いを最もしていないのもハ大監だった。正直、ユニとユンシクの母が借りてしまった金の高くらいはそのままキム家のものにしたって少ないぐらいだ。親戚の者はまずジェシンの母に追い返されたし、そのことについて問われたハ大監は大層慌て焦り、話をごまかした。

 

 「姉上を早くお引き取りして孝行しなければならない僕が、ずっと、ずっと姉上と姉上をかわいがってくださるお屋敷の皆様に甘えてきた空こそ起こった事です。母上を・・・母上を独り占めした僕のせいなのです。」

 

 「ユンシク。」

 

 ユニはユンシクの手を取っていたが、声は厳しかった。涙を浮かべていたユンシクは大きな瞳でユニを見返した。ユニもそっくりな美しい瞳でユンシクを見つめていた。

 

 「もし私がお母様とあなたと共に暮らしていても、あなたの体が辛かったり、お母さまがお疲れだったりしたら、私は体を動かして働き、稼ぐ手段を考えました。それをしてこなかったのは私の方。こちらのお父様やお母様、お兄様に可愛がられて幸せに育った私の方こそ、あなたとお母様への不孝者なのよ。」

 

 あなたは幼かったわ、私も、とユニはユンシクの手をさすった。

 

 「その時その時を懸命に生きましょう。正直にまっすぐに生きていれば、ほら、こうやって私たちは無事に巡り合えました。赦し合えるのが家族よ・・・そうよね、お兄様。」

 

 傍で聞いていたジェシンが頷くと、ユンシクがぽろりと涙をこぼし、ユニはほほ笑んだ。

 

 照れくさくなったらしく、お互いの手を取り合ってもじもじしている姉弟を、ジェシンは十分に堪能してから、帰るぞ、とユンシクに告げた。途端に、もう?と口をとがらせるユニの額をチョンと指で突いてやる。

 

 「明日も朝から講義があるんだ。こいつを部屋でしっかり寝かせねえと。」

 

 「僕、少しぐらいの夜更かしは平気です!」

 

 「ダメよユンシク、体が資本でしょう・・・。」

 

 渋々頷いて、ユンシクは腰を上げようとした。が、座り直してユニをまっすぐに見た。

 

 「姉上。僕は姉上が胸を張ってお嫁に行けるよう、出来るだけ早く大科に挑戦します。もう少しお待ちください。」

 

 きょとんとしたユニと、嫁という言葉にびくついたジェシン。ユニの反応が気になって、ジェシンはそっとユニの方を見た。びくついて揺れたからだと、ひくつきそうになる頬をどうにか押さえて。

 

 「私はどこにもお嫁に行かないわ。こちらのお母様が、いつまでもここに居なさいって言ってくださってるわ。」

 

 「え・・・あの。でもサヨンもいずれ妻帯されますよね・・・。」

 

 余計なことを言いやがって、と思ったとたんに、ユニがまたもやきょとんとした顔をした。

 

 「お兄様はご婚約のご予定はないでしょ?」

 

 「お・・・おう。」

 

 そう返すと、ユニもにっこり笑った。

 

 「お母様はね、お兄様にも私にも傍に居てほしいんですって。だから私お兄様と一緒にずっとお母様のお傍に居ることにしたの。勿論、私たちのお母様も大切にするわ。私、二人のお母様がいるんですもの、お嫁に行ったらまたお母様が増えちゃうわ。だからここにいます。」

 

 困ったようにジェシンを見るユンシクに、ジェシンは大丈夫だと頷いて見せた。何が大丈夫かは、二人の間では全く違うことは分かっての上で。

 

 「ね、お兄様。それでいいわよね。」

 

 そう言うユニに、ジェシンは答えた。答えてしまった。

 

 「おお。お前はずっと俺の傍に居ればいいんだ。心配すんな。」

 

 ユンシクの目を、今は見れなかった。

 

 

 

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