赦しの鐘 その75 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 ユニの下に行ったのは夕餉の後。母は休むのが早いが、ユニはよほどでない限り、母を寝かせてからしばらくは起きて本を読んだりしていることが多い。案の定屋敷に戻ってみれば、ユニは嬉しそうに二人を出迎えてくれた。

 

 屋敷の様子から父が返っているのは分かった。やはり少し空気が引き締まっているように感じるのだ。そう思っていると、執事がやってきて、まず旦那様にご挨拶を、と促してくる。仕方がないのでユンシクを伴ってまず父の部屋へと向かった。

 

 「お兄様のお部屋にお茶を用意しておきますね。」

 

 そう手を振るユニを背に、ジェシンとユンシクは父の前に座ることになった。

 

 父は少しやつれていた。激務ではあったのだろう。ハ大監の取り調べにも立ち会い続けたようだし、老論側との取引、小論側からの処罰に対する不満の声を押さえること、全てに気を張り通しだったに違いない。これはジェシンが今だから予想できることで、兄が死んだときはそんなことを考えもしなかった。今だって大変だろうという漠然とした考えしかない。けれど、全てを悪とし、全てを良しとするそんな明瞭な線引きなどどこにもないという事も知り始めていた。気持ちはあまり良くない。収まらない感情というものはある。若いからこそそれは強いだろう。だが、それでもしなくてはならない妥協というものがあるのだと、ジェシンはようやく知り始めていた。

 

 「大変お疲れさまでした。」

 

 「・・・まだ後始末は残ってはいるが・・・大体はめどがついた。」

 

 めどがついたという事は、処刑が遠からず行われるという事だった。

 

 「キム・ユンシク君・・・君はハ・ウジュの処刑を見届けたいか?」

 

 ジェシンが目を向けると、父は無表情だった。

 

 「処刑は民の前では行わない。それは残される家族のことを思い王様が決断為された。見届ける役人が数名と、儂ともう二人ほどが立ち会う。」

 

 「では・・・僕など入ってはならない場だと思いますが・・・。」

 

 「はっきりとは約束できないが、王様のお許しを願ってみる。君にとっては、ご父君の落命の原因になった男だ。見届けてお母上にご報告してもいいかと儂は思う。」

 

 ユンシクは処刑という言葉を聞いてから顔を青くしていたが、やがてゆるゆると首を振った。

 

 「悔しいことに、僕は当時赤子で・・・自分たちの身の上を聞かされていても、どこかよそ事でした。憎む相手がいる事すら、その相手が目の前にいなかったのですから実感など沸かないものです。どちらかと言えば・・・姉上を借金がわりに取り上げようとしたことの方で恨んでいる方が大きいです。」

 

 そう言って断ったユンシクに、父は口元に笑みを浮かべた。

 

 「もう少し手を広げれば、ハ・ウジュに加担した奴らも捕らえられたかもしれない。だが、とにかくもっとも罪の重いものを必ず罰したかった。ハ・ウジュ側にいたものはわかっているから、これから尻尾を出すのを見逃さぬようにするつもりだ。甘いと言われても・・・証拠を出さねば罪には問えないのだ。誰にも覆せぬ証拠をな。」

 

 お前たちは学問にはげむように、そうありきたりの言葉を頂いて、二人は父の前を辞した。まっすぐにジェシンの部屋に向かう。そこでは茶器を前にしたユニがにこにこと二人を出迎えた。

 

 「どうなさったの、急にお戻りになって。」

 

 そう言いながら茶を注ぐユニに、黙ってその前に座ったユンシクは頭を下げた。

 

 「僕・・・二度と姉上にご迷惑をかけません。姉上に嫌な思いをさせたこと、僕は口にすら出せなかったんです。謝らなきゃいけないと思っても、姉上にはご恩がありすぎて・・・なのにご恩をあだで返すようなあんな・・・あんな・・・。」

 

 ユニは驚いたように目を瞠ってそして言った。

 

 「ユンシク・・・あなたに迷惑をかけられたことなど一度もありませんよ。どうしたの。私がどんなに幸せに育ったか、あなたはお兄様を見てわからないの?」

 

 そう言ってユニはユンシクににじり寄った。

 

 

 

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