赦しの鐘 その74 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 成均館は噂で溢れていた。怯えと悪口と、そして勝鬨のようなものまで聞こえてきた。老論側は小論の陰謀だと言い、小論側は因果応報だと言う。捕らえたのがジェシンの父が指揮する部署だったというのがいけなかった。その上、老論側の重臣たちが動かないものだから、それを指示しているだろう老論の首魁左議政であるソンジュンの父の加担も噂され、中二坊の三人、いや常に一緒にいるからヨンハも含めて四人は遠巻きにされていた。

 

 皆誰かから詳細を聞きたい。しかし、取り調べが続く間、たかが儒生に知れることなど大した事はない。大きな情報源であるはずのジェシンとソンジュンは一切喋らないので、時々ユンシクとヨンハが犠牲になった。遠巻きにしているとはいえ、別に彼ら自身が誰かと仲たがいしているわけではないのだ。今回に関してはあまり関わりのないユンシクとヨンハはまずとっかかりとして適当であり、ジェシンとソンジュンから何かを聞かされている可能性が高いのがこの二人であったから、皆から集中的に質問を受けるのは仕方がなかった。だが、二人は知らないと首を振る。実際に詳しいことなどは知らなかった。そんなのは他の儒生たちと同じだ。

 

 「お前らさあ、コロの親父さんや左議政様が迂闊に何かしゃべる人たちだと思ってるのか?そんな人、出世しないよ。」

 

 ヨンハはそう言って笑う。隣でそんなものなのかと首をかしげているユンシクも、

 

 「サヨンたちだってわけわからねえ、と言ってるんだから・・・。それにお屋敷に戻っても、お父上様たちはご不在らしいよ。忙しいんだね。」

 

 と頷くものだから、噂は憶測が飛び交うだけに様相を変えた。

 

 ハ家の処遇については、皆が知っている過去の両班の断罪の事例から、本人は死刑、家族は身分のはく奪などと推測が始まった。身分だって、酷い時には奴婢にまで落とされる。西掌義が奴婢~、お前の家の下人に雇ったらどうだ、などという不謹慎な儒生まで出てきた。ジェシンにも、ユンシクにまで言ってきたので、無視するしかなかった。何の事実も分からないのに、よくそんなこと言えるな、というのがソンジュンの意見だ。左議政様にも飛び火するんじゃないか、と親切ごかしに言われるのがソンジュンだが、さあ、と知らぬふりをするソンジュンは誰よりも鉄壁の能面だった。

 

 こういう裁きは長くかかると決まっている、と誰かが言っていたが、思っていたより、というか裁きが終るのは速かった。これは捉える前に証拠が全て揃っていたのと、確認されていたこと、王様にまで根回しがすんでいたこと、ついでに左議政にも事前に通告がいき邪魔が入らなかったうえに、様々に条件を詰めていたこと、という事があり、ハ大監の自白があればそれで終わりだったのだ。自白を導くための条件もそろえてあった。それは家族の身分の温存だった。家財はすべて没収にはなるが、妻、ハ・インスの母が嫁入りの時の持参金代わりの土地建物は許された。普段のハ大監の利己的な行動を知っている者たちは危惧したが、案外ハ大監は早い段階で頷いた。

 

 「結局・・・父親は娘に弱いんだよ。」

 

 と誰が言ったのか。一番の決め手は、奴婢に落ちた両班の娘の行く末を思い出して見ろ、という言葉だったらしい。お前は妓楼をよく使っていた。そう言う娘が好みだったと大層噂だったが、その両班崩れの妓生にお前の娘がなってしまう可能性がある、という言葉がハ大監の自白を引き出した。

 

 「勿論、皆が皆妓生に売られるわけじゃない。どこかに引き取られて下女になることだってあるけれど、一番金になるのは娘を売ることなんだよ。こればかりはさ・・・。」

 

 そう言ったヨンハに、誰も返答はできなかった。

 

 ユンシクは一番痛そうな顔で聞いていた。そしてジェシンに言った。次にお屋敷に戻る時には、僕も連れて行ってください。姉上に謝りたいことがあります。その内容を、ジェシンはよく理解していたから、黙って頷いてやった。

 

 

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