赦しの鐘 その73 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 屋敷に寄ってから、ジェシンはハ・インスが幽閉されているハ家の屋敷の前にやってきた。屋敷に寄ったのは、父に会えるかと思ったからであって、忙しい父は結局いなかったため、ユニと母に顔を見せただけの短い滞在だった。母が小さく首を振ったので、ユニはまだハ家のことは知らされていないらしい。キム家が崩壊する原因を作ったハ大監だったからそれは知っていた。しかし今回は外出を止められているだけでその理由は父の職務のせいだとしか教えられていない。

 

 インスの顔を見ようと思ったわけでもない。見られるとも思っていなかった。インスとは派閥がもし同じであっても仲間にはなれないだろうと思うほどに相性が悪かった。同じ年齢だけに、よく二人は比べられた。学問に関しては圧倒的にジェシンに軍配が上がり、武に関してはインスの取り巻きのカン・ムとよく比べられたものだから、二対一でムン家の次男の方が優れていると密かに言われていたのが、インスにとっては屈辱の日々だったらしい。それは面白おかしく噂を仕入れて来る小論の者たちの悪口から知ったのだが、今のインスならそんな感情は意地でも言葉や表情に出さなかっただろう。インスも少年だったのだ、その頃は。ただ、派閥違いであり、父親同士の出世の速さも似通っていたために、インスの方では強烈にジェシンを意識し続けて今に至る。一つインスが勝っていることは、自分は長子であり跡継ぎ、ジェシンは次男であるという一点だった。それも、ハ大監含む老論の策略で冤罪に巻き込まれたジェシンの兄が死ぬことによって、逆にジェシンがインスと同じ大両班の跡継ぎとなってしまうという皮肉なことになったのだが。

 

 それでもインスとは因縁含めて付き合いが長い。違う学堂でも意識し合えばその存在は隣にあるのと同じだ。親しみなどではない相手の存在への意識が、ジェシンを彼のいる場所まで運ばせたようなものだ。

 

 屋敷の門は封鎖され、角々に見張りの兵が立っていた。門の前には悄然とカン・ムが佇んでいた。ゆっくりと近づくと、常に霧氷所の彼が珍しく眉をひそめてジェシンを見た。

 

 「野次馬に来たわけじゃねえ。」

 

 ジェシンはポツリと言うと、カン・ムの隣に並んだ。

 

 「では何をしに来た。一儒生が今できることなど、野次馬以外にないだろう。」

 

 「じゃあ、お前も同じじゃねえか。」

 

 そう言い返すと、カン・ムは黙った。何もできないのだ。例えインスの腹心の友なのだとしても。ただ、彼の無事を祈るだけしかないのだ。祈るのに場所は関係ないが、それでも最も近くで祈りたいのだ、とやけに小さな声でカン・ムは呟いた。

 

 「おい。俺はムン大監の一子、ムン・ジェシンだ。お叱りは父から直接頂くから、言いつけて構わねえ。少し様子を教えてもらえないか。」

 

 いえ、困ります、困ります、と何度か言った門を守る兵二人が、結局困り果てて一人どこかに走って行った。カン・ムはしきりに、いい、何もするな、と言ってきたが聞かぬふりをして待っていると、一人の男を引き連れて見張りが戻ってきた。上司なのだというその男に同じ質問を投げかけると、今はあまりお教えできることはないですが、と分かる範囲で口を開いた。

 

 「そうですか、ここに残されている者の今の処遇ですね。お調べの件は教えられませんがそれぐらいなら・・・。」

 

 そして、家探しのために家族は一室に、下人下女は別の一室に閉じ込めていたが、終わったので屋敷内は解放してあること、怪我をしている者は、抵抗した私兵以外にはいないこと、食料などはあるなしを確認して、必要があれば言うように通達してあること、罪人として連行されたハ家の主人の調べがひと段落つくまでこの状態は続くこと。

 

 「さ・・・差し入れはしてよいのだろうか?」

 

 そう聞くカン・ムに、男は頷いた。

 

 「内容は改めさせてもらいますが。食い物飲み物、衣服などは改めたのち中にいれます。それ以外は困ります。ああ、手紙は内容を拝見しますよ、逃亡の示唆をされては困るし、証拠隠滅の指示などがあったら尚更困るので・・・。」

 

 軽く礼を言って、カン・ムを促し、屋敷に背を向ける。助かった、と小さく呟く昔なじみに、ジェシンはいや、としか答えられなかった。

 

 

 

 

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