㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。
ご注意ください。
物見高い者たちは成均館から飛び出して野次馬に混じりに行った。しかし、ジェシンは残った。呆然と立ちすくむユンシクの肩を抱き、扇子で自分の肩を叩いているヨンハを従えて。ソンジュンは、
「一旦、屋敷に戻ってきます。父がいるといいのですが・・・。」
と言いながら足早に出ていった。自分たちが行っても何にもならないし、野次馬に混じるだけがせいぜいだ。カン・ムはそれでもハ・インスの傍に行ってやりたかったのだろう。自分だってユンシクやヨンハ、勿論ソンジュンが困ったことになれば飛んでいくに決まっている。その気持ち一つで、カン・ムの行動が無駄なことだとは思えない。だが、行っても無駄であることだけは明白なだけに、虚無感だけが残る。
「・・・カランとヨンハのところの下人からの情報待ちだ。戻ろうか。」
「お前は屋敷に帰らなくていいのか。」
「・・・ハ・インスの屋敷を囲んでるのは、多分俺の親父だ。」
そう言うジェシンを、ユンシクは目を見開いて見つめた。
「帰ったっているわけじゃないし、いたところで職務のことをしゃべるような人じゃねえ。今回は、昔の兄上の事件の延長線上にあることらしいから、それとなく示唆されていたが、俺が言いつけられたのはお前を守って普通に暮らしておくことだ。知らぬふりをしてな。」
ユンシクにそう言うと、促して東斎に向かった。どちらにしろ、本当に何もできる事はなかった。
夜に入って戻ってきたソンジュンは、他の人たちも戻ってきてますよ、と言ってから座り込んだ。いつもより少し崩れた感じがするのは、気疲れのせいだろうか。会えたのか、と聴くジェシンに、はい、と頷いていつものようにぴんと背筋を伸ばして座り直した。
「いました。今日は朝議のない日で、だからこそ踏み込みが今日になったのだろうと落ち着き払っていましたが・・・面倒なことだ、とは申していました。」
「知っておられたのか?」
「知らせは来たそうです、王宮とそれから・・・ハ大監からも。」
「助けを求めたのか・・・。」
「そのようですね。けれど父は何も出来る事はない、と言っていました。嫌疑はヨリム先輩の言われた通り、殺人の共謀と土地の不正贈与、および取得、でしたし、証拠も証人もそろっているそうです。」
嫌な話になりますが、とソンジュンは一旦下を向いた。
「コロ先輩の兄上様が犠牲になったあの事件に、その土地は絡んでいたようです。その土地をまずハ大監から与えられた男がいます。その男は一年後に物盗りに殺されています。そして土地はハ大監の名義に戻りました。この辺りの動きからとっかかりがあったようです。」
ひ、と声がした。ユンシクだった。人が殺されるという非日常に怯えたのだ。
「この土地は再び違う男に譲渡されました。この男はハ大監の執事を務めていましたが、やめると同時にこの土地に立っていた別邸に住んでいます。大層羽振りが良く、執事の時によほど金を貯めたのだろうという事でしたが、それにしては贅沢過ぎる暮らしで目立っていたようです。で、つまるところ金が少なくなってきたのでしょう・・・この土地と別邸を再びハ大監に買ってくれないかと申し出た、ここでこの男は数日後、襲われます。」
またユンシクが身を竦めた。頬も抑えた。あのハ家の令嬢の供に殴られた記憶がよみがえったのだろう。
「この男は助かりました。これは、この男に見張りがついていたからです。助けられたついでに捕らえられたこの男が、まず第一の証人。」
「で、襲って失敗した奴が第二の証人か。」
「はい。頼まれた仕事らしいですが、その頼んできた先をたどってたどり着いたのがハ大監。という流れのようですね。」
ヨンハが立って行った。ほとほとと扉を叩く音がしたのだ。呼びかける声で自分の下人だと分かったらしい。外に出て話を聞いてきたヨンハが、待ち構える皆の前に座り直すと、おもむろに口を開いた。
「ハ・インスの父上は捉えられた。インスと家族は今・・・屋敷に幽閉状態らしい。屋敷の門は竹が組まれて、見張りが周囲に立っているという事だ。」