赦しの鐘 その66 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 大歓声が起こる。射台の上のユンシクは担がれるようにして下ろされ、皆に囲まれた。東斎の儒生だけではない。ユンシクと比較的親しくしている西斎の者たちも興奮して駆け寄ってきた。皆、弓初心者のユンシクの様子を知っているから。それなのにハ・インスの無茶苦茶な喧嘩を買ったその男気と、勝つ努力をして実際に勝って見せた現実が、皆を高揚させていた。

 

 ソンジュンがまっすぐにその儒生の輪の中に向かった。ジェシンは逆に走り射台に駆けあがった。弓を拾い上げ、弦を調べる。血が弦に染みわたっていた。顔を近づけ、野をつがえるあたりを探る。血の色が濃い。親指でこすってみると、違和感があった。

 

 固い、と思いもう一度こする。今度はちくりと何かがめり込んだ。指を放してよくそこを確かめると、弦である糸の網目からぽろりと落ちてきたものが一つ。石だった。それも薄くとがりのあるもの。

 

 数度こすると、ポロリぽろりといくつも落ちてくる。網目の中に、容易に出てこないように、極小の鋭利な角度を持つ砂のような石と、何かの植物のとげ、それがジェシンの掌に数個握りしめられた。拳を握ったまま、西斎の天幕をにらみつける。ハ・インスは既に背中を向けていた。待ちやがれ、と踏み出そうとした瞬間、が、と肘が掴まれた。

 

 「放せ!」

 

 「離さない。コロ。王様の御前だ。」

 

 落ち着いたヨンハの声が聞こえた。振り向くと静かに首を振っている。

 

 「・・・卑怯な真似しやがって・・・。」

 

 「そうだな。卑怯な真似をしたのに負けたんだ、お前たちに。屈辱は倍増だろうよ。」

 

 其れよりも、とヨンハは肘から手を離した。ジェシンが我に返ったと見たのだろう。

 

 「テムルを褒めてやれよ。ほら、カランが救い出して来てる。ドヒャンに担がれる寸前だったよ・・・。」

 

 見ると東斎の天幕に戻りつつあるユンシクとソンジュンがいた。後ろに儒生を従えて、まるで王者の行進のようだった。

 

 「誰がやったかは目星は付いてるよ。ハ・インスが睨みつけてた。命じられたことをして下手を打ったのか、逆に勝手なことをして下手を打ったのか、どちらにしろハ・インスの思い通りじゃなかったんだろうぜ。」

 

 ほら、と促されて、ジェシンは弓を持ったまま射台を降りた。

 

 

 

 血まみれで王様の前に出るわけにはいかず、ユンシクは丁寧に手に晒しを巻かれた。どうしたのだ、と一言聴いた薬房のチョン博士に、終わったことです、とユンシクも一言だけ返した。王様は終始ご機嫌で、一人一人に声を掛け、帰って行った。

 

 それぞれの父親は、何も言わずに王様に従ってそのまま退出していった。ハ・インスの父親はせわしなく目をきょろきょろさせて、何かきっかけを探していたようだったが、イ・ソンジュンの父親が何も行動を起こさないせいで、でしゃばるわけにはいかなかったらしく、未練がましそうに振り向きながら帰って行った。

 

 「大げさにカランを褒めたかったんだろうなあ・・・。」

 

 「親しさを公表しようとか?」

 

 「俺は別にハ大監様とは親しくないですよ。」

 

 「お会いすることはあるんだろ?」

 

 「特には会いませんよ。屋敷にいる時にご訪問されたときなんかに挨拶したぐらいです。時折ご令嬢を連れてこられてましたが、俺は呼ばれない限りは顔を出さないので。」

 

 「諦めてないんだろうなあ、令嬢とお前との婚約。」

 

 「はあ。俺を待っていたら婚期を逃すだけなんですけれどね。それに・・・。」

 

 ソンジュンは令嬢に関しては真剣にそう思っているらしい。ほとんど交流もない相手にいいも嫌もないのは確かだ。しかし、ソンジュンの話には続きがあった。

 

 「ハ大監が義父、掌議が義兄になる方が何か嫌でした。何しろ、そちらの方が理由としては大きいので、ご令嬢には申し訳ないんですが。それに父も俺が断ることに反対しませんでした。」

 

 急にソンジュンは大人のような顔をした。

 

 「おそらく何かあるのでしょう。父たちの間に。ですから、掌議の言うように老論としてあの人と行動を共にする必要はないと思っています。キム家がらみの話を聞いてなおもそう思いました。あの人は、父の中では、もう駄目な人です。」

 

 現役政治家の子息の顔がそこにあった。

 

 

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