赦しの鐘 その58 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 「よくも・・・恥をかかせてくれたな・・・。」

 

 掌議室から下斎生達達は追い出された。そう、恥だ。縁談の一つや二つ、という事にはならない。話が公になる時点で、家同士では話が付いてるものなのだ、両班の縁談というものは。今回は、親同士で話しがまとまる前に、インスの父親が吹聴して回り、ソンジュンがはっきり断った時点で、まるで『破談』になったような形になってしまったのだ。けれどそれはまだ老論の中での話に収まっていた。やはり外聞のいい話ではないし、相手が左議政という立場の者だけに、噂好きの者たちも公には何も言わなかったのだ。なのに、聞きかじっただけの下斎生達が何もかもを台無しにしてしまった。ハ家の面子も、インスの妹が『断られた』という娘としての恥辱も公にしてしまったのだ。例え表に出ている理由が、イ・ソンジュンの言う『学問のため』であったとしても。

 

 それほどイ・ソンジュンという若者の価値は高かった。家の価値は子息の価値を高める。イ家は、そう、国の中でも最高の位置にある家柄とも言っていい。それだけではない。本人が優れているのだ。まだ十代の儒生とはいえ、誰にも譲らない優秀な頭脳だけでなく、彼は容姿も端麗だった。恵まれた体形、背は高く、程よく鍛えられた体躯は細くとも男らしかったし、まず顔が良かった。涼やかな美男子ぶりは、歩くものを振り返らせる魅力があった。彼を見たことのある両班の令嬢なら、彼との縁談が起これば飛びつくだろう。ハ家の令嬢だって同じだったに違いない。そして期待も大いにしたに違いない。何しろ、父親がソンジュンの父親と親しいのだ。期待させるようなことも言っただろう。彼にふさわしい娘になるようにと言い聞かされただろう。それが自慢だったろうに、その希望がついえたことを皆に知られてしまったのだ。最も哀れなのは彼女だという事は誰にでもわかる。

 

 そしてその憐れみは、ハ家にとって、それもハ・インスにとっては恥辱の極みだった。憐れみを施されるのは、キム・ユンシクのような力のない奴らであって、決して自分ではなかったはずなのに。それをいうなれば味方であるはずの者たちに暴露されてしまったのだ。そして大勢の人の前で、婚約を断られるという侮辱の二度目を受けてしまったのだ。家と家との間で断られたことですら恥であるのに、皆の前で、だ。

 

 もはやイ・ソンジュンですら憎い。最初から気に食わなかった。生まれ落ちた時からインスが得られない場所をもつ男。自分の父親がそうだったように、這い上がって行かねばならない場所に最初から席を貰っているような恵まれた奴。自分の側に居ればよかった。妹の婿になれば立場は大いに逆転できた。なのに、まず自分の側に来ない。彼は居心地のいい相手を、他に見つけてしまっていた。縁談という道も途絶えた。父親はインスに愚痴を言う。最近、左議政様が自分の提案や助言を聞き流してしまう、お誘いしても酒の席に来てくれない。お前はまだソンジュン殿を引き入れられないのか、だから妹が縁談を断られる羽目になるのだ、と。そんなもの、あなたが何か失敗をしたからじゃないんですか、とインスは歯を食いしばった。聞いたばかりの父の過去の大失態が頭を巡る。その被害者がキム・ユンシクの父親だと?尻拭いをしたのがイ・ソンジュンの父親だと?キム家のその後の面倒の一部を引き受けたのがムン・ジェシンの父親だと。俺の父親はそいつらに頭を垂れねばならないというのか?いうのだろうな。人一人を失態で死なせているのだから。その後始末を、一時の金で済ませたまま忘れたように生きてきているのだから。例え死んだところで何のこともない奴だったとしても。それでもその一人の死は、父親の汚点となって今またハ家を揺るがしている。

 

 「ハ・インス・・・イ・ソンジュンとキム・ユンシクにこだわるな。俺たちの親の代の因縁に巻き込まれてどうする。下斎生達は俺が黙らせて来るから、お前もしばらく目を背けておけ。」

 

 一人掌議室に残ったカン・ムがたしなめる言葉も耳を通り過ぎていく。お前も俺を否定するのか、そう目を向けると、首を静かに振った幼馴染。誰も頼りにならない。それでも日々はまた新たに始まるのだ。成均館には手射礼という行事が迫ってきていた。

 

 

 

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