赦しの鐘 その57 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 ハ・インスは何食わぬ顔をして成均館に戻ってきた。周囲もこそこそとうわさ話はするが、ハ・インスに直接何か言う輩は現れなかった。何といっても未だ彼の父親は老論の中でも力のある方に属し、金も持っている有力両班だ。少し違っているのは、ユンシクに対しての嫌がらせを取り巻きに命ずることがなくなったことだろうか。

 

 ただ、全くなくなったわけではない。派閥の強弱の論理はまかり通っているから、ユンシクは若いこともあって弱者としては立場は変わらなかったから。南人の中においても、知人もおらず、後ろ盾になる官位をもった父もいないユンシクは、相手にするのも価値がないと思われるぐらいの立場ではあったが、徐々に彼に親しみを覚える儒生が増えていったのは、ユンシク自身の人徳だったろう。明るく、勤勉。爽やかな美少年。彼をかわいがる人間は少しずつ増えた。

 

 特に、彼の優秀さは、彼自身の価値も上げていった。成均館は学問の府。頭の良さはその序列に明確に現れる。今、成均館に君臨するのはイ・ソンジュンだった。勿論在籍年数によって受ける講義は違うから全講義での話ではない。しかしソンジュンは自らが受講する講義の壮元を譲ったことは一度もなかった。入学以来一度も、だ。それは目覚ましいものであり、やはり目立つ。その陰に隠れて、静かに淡々と上位に食い込み続けるユンシクがいることに、皆が目を晦まされるぐらいに。しかしそれも徐々に皆の間に浸透し、キム・ユンシクの優秀さは定着していった。

 

 インスの取り巻きには下斎生と言われる小科にも合格できない劣等生が多い。彼らは親の金で成均館で、初歩の講義を受けさせてもらっているだけだ。小科に受かって入校している上斎生とは確実に線が引かれている。ユンシクの方が圧倒的に上位なのだ、成均館では。しかし今まではインスのご機嫌取り、家の大きさのおかげでユンシクを盛大に馬鹿にできた。しかし、インスの不気味な沈黙と、ユンシクの明らかな優秀さに、彼らはくすぶり続けた。インスに取り立ててもらいたい、あわよくば彼の父と自分たちの父親を繋いで手柄としたい、そう思う彼らは、自分たちを高める事より、人を貶めてそれを踏み台にする方に惹かれた。その方が楽だからだ。インスの沈黙に、自分たちがその沈黙の原因であるユンシクをやり込めれば、鼻を明かして差し上げられる、ぐらいに思い、機会を狙っていた。

 

 それは、ハ・インスの妹との縁談がイ・ソンジュンに起こっていると聞きつけた者がきっかけだった。イ・ソンジュンがすでに断っているとも知らずに、それをネタに、イ・ソンジュンを解放して西斎に移動させるべきだと言い立てたのだ。ユンシクに聞こえるように、講義終わりに。

 

 姻戚関係になるのだから、義兄となる人との親交を妨げるようなことをするのは礼儀知らずではないか、礼儀など教えられずに育ったんだよ何せ貧しいし学堂で秩序というものを習わなかったんだからな、ハ家の令嬢は大層お美しいと聞くイ・ソンジュン儒生も喜んでいるだろう、どこぞに家に養われている偽の令嬢なんか婚姻の話すらないだろうな、似たような年回りなのだろうに。

 

 その時、ジェシンはいなかった。ヨンハも。ソンジュンとユンシクは共に入学したから講義も同じものをとるが、流石にジェシン達と同じものは少なかった。それが下斎生達を助長したのだろう。広い講堂ではっきりと区切られて程度の低い勉強をする自分たちと、博士に高度な議論を求められる講義を受けるユンシクたちとの差がない中庭で、下斎生たちは強気だった。

 

 「断ったよ。」

 

 イ・ソンジュンの声が響いた。よく通る声は、大声でなくともその場にいた全員に聞こえた。ソンジュンはユンシクに向かってしゃべったのだが、皆がその言葉に注目した。

 

 「俺は自分の身が定まるまで婚約もしないつもりなんだよ。父も了承してくれている。女人には適齢というものがあるからね、他でお探しくださいと申し入れたよ。」

 

 「そうなんだ。」

 

 「お会いしたこともないしね。」

 

 そう言い放って東斎に戻って行くソンジュンとユンシクの背中を見つめ、下斎生達は自分たちの失態を知った。

 

 

 

にほんブログ村 小説ブログ 韓ドラ二次小説へ
にほんブログ村