赦しの鐘 その56 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 「ムン・ジェシン・・・ハ・インスの父上の話は・・・本当のことか?」

 

 急に話しかけてきたのは、カン・ムという老論の儒生だった。ジェシンと同年。どちらかと言えば武に長けた男で、ハ・インスの取り巻きの中では際立ってインスに近かった。幼馴染と言ってもいいほどの付き合いらしい。

 

 インスはカン・ムには下っ端の取り巻きにやらせるような嫌がらせに相当することはさせなかった。いつもインスの隣で護衛しているかのように彼は佇んでいるだけだった。ジェシンもカン・ムに遺恨は何もない。付き合いも薄いし、彼から突っかかってくることも皆無だ。ただインスの傍に居るのが気に食わない唯一の点であるだけだった。

 

 「どの話のことだ?」

 

 分かっていたが聞き返してやった。先日ユンシクにやらかした彼の行動には腹を据えかねていた。それを止めることもないカン・ムにも。

 

 「・・・知っている者がいた。昔、捕らえる相手を間違えて隣家の無実の者の家を急襲し、更にはその騒ぎで無実の者が死んでしまったと・・・それを取り仕切っていたのが、インスの父上で、殺された無実の者が南人のキム家の当主だったと・・・。」

 

 「その通りだ。その騒ぎで火事が起こり、赤子だったシクとその姉を守ろうとした奥方は目を負傷した。シクも煙で肺に熱が入り弱り切った。だから唯一無傷だった姉娘をわが家が預かった・・・というのが事実だ。」

 

 「その失態を納めたのが・・・。」

 

 「イ・ソンジュンの父親、現左議政様だぜ。インスの父親の首の皮がつながったのは左議政様のおかげだ。だからかまとわりついているだろうがな。あの事件を忘れたようにふるまうのはどうかと思うがな。尻拭いをしたのは、うちも同じなんだがな。」

 

 「・・・そう、なるな。」

 

 「ユニは優しいいい娘だから、我が家のことはいい。だが、キム家は一方的に壊されたんだ、日常を。それを忘れたとは人非人としか言いようがない。」

 

 「いや、忘れたわけではなかろうが・・・。」

 

 「こうやって自分の息子にも恥をかかせている。ハ・インスからしたら大恥だろうよ。馬鹿にしたつもりが、自分の父の大失態を皆に自ら暴露したようなものだし、親子として何も知らされていない、もろい絆を晒したようなものだ。」

 

 お前は知らなかったのか、と逆にジェシンが聞くと、ああ、とカン・ムは頷いた。

 

 「実は・・・父に尋ねられたのだ、前の帰宅日に。最近、左議政様がハ・インスの父上と距離を置こうとしているのがなんとなく老論の中で噂になっているらしい。お前の父上を筆頭とする小論も力をつけてきていて、団結しなければならない時なのに、ハ・インスの父上は左議政様の御機嫌を必死で取りながら、幾人かを自分の取り巻きにしようとよく会合を妓楼で開いているようだと。」

 

 「お前らと一緒じゃねえか。」

 

 「俺は!ハ・インスを裏切ったことはない。」

 

 「知ってるぜ。だが、やってはならないことを止めもしねえじゃねえか。」

 

 「イ・ソンジュンを西斎に来させたいのはハ・インスだけじゃない。」

 

 「それならシクより興味をもってもらえるような人物がいねえだけだろ。諦めろよ。」

 

 「あいつらは・・・イ・ソンジュンもキム・ユンシクも派閥が何たるかを分かっていない!」

 

 「お前らだって現に親たちが仲間割れを始めかけてんだろ。派閥なんて結局都合のいい方に流れるだけのもんだ。」

 

 理念も思想も、かつてはあったのかもしれないが、今は利と権力の陣地合戦だ。そのための人数合わせ。それだけに過ぎない。そう言うジェシンに、カン・ムは顔をゆがめた。

 

 「お前の父上も含め、老論の中では、ハ・インスの父親には何かきな臭さを感じる人がいるんだろ。今までは目をつぶっていられたことが、表ざたになるかもしれねえんじゃないのか。今回のことだってよ、結局誰も忘れてくれてねえ。自分は忘れたつもりだったんだろうが、まずキム家は忘れねえ。俺たちムン家も忘れねえ。何よりも、イ・ソンジュンの父親は忘れてねえよ。自分の手を煩わせたんだからな。お前がハ・インスのことを思うなら、言ってやれよ。父親より賢く立ち回れってな。」

 

 インスはあれから実家に戻って数日帰ってきていないという。その間に、すっかりキム家の奇禍の原因が自分の父親の失態だと成均館中に知れ渡ったというのに。

 

 

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