㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。
ご注意ください。
「へえ。無事再会かなったんだな。テムル~、お母上様はお喜びだったろう?」
肩を抱くヨンハに、ユンシクはにこにこと笑った。それだけでヨンハの質問を肯定しているのが分かり、ヨンハもにこにこと笑った。
成均館に入学の時も、帰宅日の往復もジェシンと共にいるユンシクに、仲のいいソンジュンも流石にその理由を聞きたくなったらしい。ある程度は知っているヨンハを含め、ユンシクはジェシンに許可をとって二人に訳を話した。
「別にうちはユニがムン家の実子ではないことを隠したことはないんだ。ただ、キム家の二人の健康がなかなか戻らなかったから、長く預かることになっただけで・・・だから養女にすらしていない。だが、もう両親にとっては我が子同然だ。」
「では、手放すのを惜しまれたでしょう。」
すっかりユニがキム家に戻ったと思い込んだソンジュンに言われて、ユンシクとジェシンは同時に首を振った。
「母上は、ご自分の心境のせいもあって都には住みたくないんだよ。だけど、姉上はずっとムン家のお母上様の薫陶を受けてお育ちだろ。田舎の何もないところに引っ込ませたら、せっかくの娘としての教育が止まってしまうから、って引き続きのムン家での養育を望まれたの。勿論、母上のところにも行くんだ~って、姉上は張り切って下さってるんだ。」
「うちの両親は大喜びだぜ・・・。母上はもちろん、親父も隠せてないからな・・・。」
「コロもだろ!」
無言で背中をはたいたが、皆にやにやしているのが気に食わなくて、ジェシンは顔をそむけた。当たり前だ。俺のユニだぞ。
「とにかく、そういう事だ。ただ、隠してはいないが、言いふらしもしてねえ。聞かれでもしない限り放っといてくれるとありがたい。」
「そうですね・・・最初からこうなった理由を話すと、都合の悪い人も出てきますしね・・・。」
何しろ噂になるのが面倒なんだよ、というジェシンに皆頷いて、
「僕のことなんか誰も噂にしないよ~。」
とうららかに笑うユンシクに、鈍感な奴め、と皆苦笑して、ささやかな再会の幸せを分け合ったのに、余計なことをするものは現れるのだ。
やはりジェシンとユンシクの親密さは、ソンジュンとユンシクの組み合わせ同様目を引くようで、雑に身辺を調べた老論の者が、ユンシクとムン家の末娘の関係をハ・インスに報告したのだ。そして具合の悪いことに、ハ・インスは自分の父がそれにどうかかわっているのかを全く知らなかった。ただ、その報告を、ユンシクとジェシンを馬鹿にするためだけに使おうとしたのだ。
公衆の面前で、ハ・インスは自分の取り巻きにそれを囃させた。調べたものの雑さは、キム家の奇禍がムン家の当主の失策だという事に事実を曲げているところにまで及んでいた。成均館の儒生たちは若い。勿論自分たちが幼い頃の事件を覚えている者はいない。しかし知っているものだっているのだ。老論と対抗する派閥のハ・インスの父を憎むもの、勿論老論の中にだっている。そんな者たちは、ハ・インスの父の昔の大きな失態を忘れはしない。
「お前・・・馬鹿だろ、ハ・インス。」
ほとほと呆れたようなジェシンに、インスは更に馬鹿にしたような返答を返した。
「負け惜しみはいいよ、ムン・ジェシン。お情けで官位を保っているのだからな、お前の家は。」
はあ~、とため息をついたジェシンは、片眉を上げた。
「ほら見ろ、お前が仲良くしたくて仕方がねえイ・ソンジュンが呆れてるぜ。」
ユンシクをかばおうとユンシクの隣に寄り添ったソンジュンに、ハ・インスは目をやった。ソンジュンはジェシンよりさらに嫌悪の表情を浮かべてインスを見ていたため、インスはいら立ちを隠さずに言った。
「聞いた通りだよ、イ・ソンジュン。こんな負け組と一緒にいるなんて馬鹿のやることだ。友人はもっと選ばなければ。」
「選んでいますよ。」
そう冷たく言い放ったソンジュンは、行こう、とユンシクの肩を抱いた。
「今あなたが言った失態はすべて違う方の行いですよ。コロ先輩のお父上は、その尻拭いをしてくださった恩人です。今、あなたが言ったことは、全て、老論の失態です。お父上に聞くがいい。」
最後は、相手が先輩だという事も忘れたようにきつく言い放ち、ソンジュンはジェシンも促すと、ハ・インスに背を向けた。