赦しの鐘 その53 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 ジェシンは前日歩いた街道の途中まで来て、ユニとユンシクの帰りを待ち構えていた。ユニを屋敷に送り届けてから成均館に戻る予定なのだ。成均館の夕餉前には戻るつもりのはずだから、昼には実家を出立するはずだった。

 

 

 朝、下女に、母上のご都合が良ければ呼んでほしいと頼んでおくと、朝餉を食べ終わった時点で呼ばれた。ジェシンは流石に身づくろいを直し、道袍までは着ていないが、長衣の上にケジャをきちんと着て、髪をとりあえず結わえた。しかし母はジェシンを見ると苦笑して傍に来るように命じ、手ずから髷に結い上げられてしまって、目じりがきつい、引っ張られると思いながらも、仕方がなく神妙に座り直した。

 

 「・・・キム家の奥様にはご挨拶できましたか?」

 

 「母上。到着しましたのが夕刻もかなり回っておりました。ご挨拶には失礼な時間かと、ユニと弟に託して戻ってきました。」

 

 「そうですか・・・やはり遠いのですね。」

 

 母は頬に手を当て、少しうつむいた。ジェシンは何を言っていいかわからなくて、あ、と昨夜父に託された伝言を思い出した。

 

 「母上、父上が母上に伝えてくれと・・・。頼む、とだけ申されていました。それから俺に、母上から話を聞けと・・・。」

 

 母は顔を上げると、そうですか、と少し顔をほころばせた。

 

 「ご自分でどうしておっしゃらなかったのかしら、旦那様は・・・。」

 

 「俺のことですか?」

 

 つぶやく母にジェシンが聞くと、そうですね、と母は座り直してしゃっきりと背筋を伸ばした。

 

 「お前と・・・ユニのことですよ。」

 

 

 その話を咀嚼できたのは、母の部屋から辞して自室に戻ってからだった。どかりと座り、頬杖をついて話をまとめた。まとめるほど長い話ではなかった。こうするつもりだ、ただユニにも他の誰にもまだ言ってはなりませんよ、段取りというものがあります、と言われたが。

 

 お前の嫁に、ユニを考えているのです。

 

 そう母は言った。それは父と母が各々で思いついた、ユニをムン家にずっといさせるための方法だったのだという。二人とも、養父母としてユニと離れがたいし、しかし人の子の親としてキム家のユニの実母に無理な養女の話に持ち込みたくもないと悩んだのだ。考えているときに、養女にしてもいずれ嫁がせればいけなくなる、と気づいたのだという。養女にしていれば実家はムン家にはなる。けれどムン家はからはいなくなる。それも寂しい。だが娘は良い家に嫁ぐのが幸せだという考えも捨てられない。その堂々巡りの先に一筋の光のように思いついたのが、我が家の嫁になればいい、という考えだったのだ。

 

 「勿論、思いついたばかりですし、周りから見れば安直なことだと思われることもない事はないと分かっていますよ。お前たちの本位でないかもしれない。お前たちは本当に仲の良い兄妹として育ってきたのだから、いきなりこんな話をされても、と思うだろうと。けれどね、ジェシン、お前の父上は、お前は頷くだろう、とおっしゃったのですよ。」

 

 くそ親父、と母の前で言いそうになって慌てて口をつぐんだ。何を見透かしたように。分かったようなことを言いやがって。

 

 けれどそれは負け惜しみだとジェシン自身がよく知っている。

 

 多分、どんないい家の良い男のところに嫁に出したって、ジェシンは不満を抱くだろう。お前にユニを守れるのか、お前にユニを幸せにできるのか。ユニは甘えただぞお転婆だ。お前より学問に秀でているかもしれない女だぞ。お前にユニが御せるか。ユニの満足する男なのか、お前は。だから父の言っていることは正しい。ユニのことをよく知らない男のところになんぞやるぐらいなら、俺がずっとユニの傍に居ればいいだろう。簡単なことだ。そうジェシンが思うことを見透かされている。

 

 「とにかく、これはキム家のご意向もあってはじめて成立する話です。思い付きで起こしてはいけない話ですからね。けれどジェシン、お前が私たち親の思いに賛成なら、父上が話を進めるよう考えるとおっしゃられるのよ。それに私も・・・この母も、お前とユニの母を続けられるなら、こんな幸せなことはないのですよ。」

 

 

 

 一応胸の奥で納得して咀嚼しきって、そして畳んできた。まだ口に出すべき事柄でないからだ。けれど、何だか体がムズムズしてじっとしていられなかった。ユニの顔が早く見たかった。それでつい、街道まで迎えに出向いてしまったのだ。

 

 

 

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