赦しの鐘 その47 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 膳を片付けに来た下女と入れ替わりに、ユニは部屋に入ってきた。湯の入った鉄瓶を持ってきた奥付きの下女は心配そうにユニとジェシン、そしてユンシクを見比べたが、ありがとう、というユニに促されるように扉を閉めた。

 

 沈黙の中、ユニが茶の支度をする音だけが部屋に響く。ユンシクはユニの姿を凝視していた。口を一文字に結んで、必死に。大きな瞳をさらに見開いて。

 

 ユニとユンシクの最も似ているところはその瞳だろう。形も大きさもそっくりだった。絶望的なぐらい、二人は血縁者だった。ジェシンにとっては。

 

 静かに二人の前に茶碗が置かれる。ユンシクはそれでもユニの顔から視線を外さなかった。ユニはそれまでは目線を上げずに茶の支度に没頭していたが、流石に座り直して顔を上げ、そして小さく噴き出した。

 

 部屋に音が戻った。

 

 「ふふ。穴が開いてしまうわ・・・。自分と同じような顔でしょう、珍しくないはずですよ。」

 

 口元に手を当てて笑うユニに、ジェシンは肩の張りが取れ大きく息を吐いた。

 

 「ああ。確かに同じような顔だ。並べて見たら本当にお前たち、姉弟なんだなあ・・・。」

 

 「初めまして、でいいですね。赤子の時に離れ離れになってから初めて会うのですから・・・。あなたの姉のユニです。」

 

 ユニの声は明るかった。ジェシンの耳にはうれしそうにさえ聞こえた。また胸が痛んだ。

 

 「あ・・・。キム・ユンシクです・・・あ・・・姉上・・・ユニ姉上・・・。」

 

 ユンシクは呆然とした後、震え始めた。いきなり挨拶の相手となった高い地位にあるジェシンの父との会談でも落ち着いて見えたのに。ジェシンと軽口を言って笑いながら食事もとったのに。震えて、震えて、そしてその大きく美しい瞳にみるみるうちに涙を盛り上げた。

 

 「も・・・申し訳ありませんでした・・・申し訳ございません・・・。」

 

 繰り返す言葉は同じ。驚いてすり寄ったユニの手を掴み、頭を垂れて涙をこぼす。ユニは戸惑い、ジェシンを見た。ジェシンは首を横に振るしかなかった。ユンシクは何を謝っているのかなど、ジェシンにはわからない。分かるわけがない。

 

 「顔を上げて、ね、見せてください、あなたの顔を見せて。ああ・・・こんなに泣いてはなりません。いくつなのですか。泣いてはならないのですよ、もう大人になるのでしょう。」

 

 ユニが手巾を取り出してユンシクの頬を拭う。優しいその手つきには優しさしか感じられなかった。

 

 「な・・・何もかも・・・姉上のおかげなのだと・・・母に聞かされて育ちました・・・母上と僕が体の健康を取り戻す術と時をもてたのも・・・安らかに家で暮らせるのも・・・姉上が幼い身の世話を他家に任せてくれているからだと・・・。母上は姉上に会いたくて、いつも眠る前、僕を抱きしめて姉上の名と僕の名を交互に呼びながら寝かしつけてくださいました。僕の年が増えるとき、姉上の年も同じように数えました。それでも、僕がふがいないせいで、時がかかり過ぎました・・・。母上は僕の健康のために他に力を注げなかったのです。母上があんなに姉上を呼んでいたのに、僕がずっと母からの世話を独り占めにしてしまったせいなのです。姉上・・・僕を恨んでください・・・。僕はこれから、姉上にも母上と同じように孝行いたします・・・。」

 

 ユニはユンシクの涙をぬぐいながら、片手でユンシクの手を握り返していた。ユンシクは両手でユニの手を押し頂くように包み、そして涙は後から後から盛り上がり、頬を濡らし続けた。

 

 「ぼ・・・僕たちは・・・僕と母上は・・・姉上に望みを言ってはならない、と母上は今回僕に言いました・・・本音は違います、僕は先ほど、ムン大監様には言えませんでしたが、ムン家に姉上の養育のお礼と共に、もう一つ言伝があったのです・・・僕が・・・僕がまだまだ一人前ではないから・・・姉上が望むなら引き続きこちらの奥様にご教育いただきたい、と・・・僕がふがいないばかりに、申し訳ございません、姉上・・・。」

 

 何を謝っている、とジェシンは固まっていた。何を謝ることがある、願ったりかなったりだ・・・ユニが堂々とこの屋敷にいることができるんだぞ。

 

 

にほんブログ村 小説ブログ 韓ドラ二次小説へ
にほんブログ村