赦しの鐘 その48 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 「でも・・・!」

 

 しゃくりあげながらユンシクはつづけた。

 

 「時に会えるだろうか、と。それは叶うだろうか、と。姉上がお嫌でなければ、顔が見たい、話しをしたい・・・父上の・・・父上のことを姉上に話して差し上げたいと・・・願っておられます。姉上・・・。母上の悲しみ寂しさに免じて、母上の願いを聞き届けてくださいませんか。母上の願いは、今、それだけなのです。」

 

 僕が先にお会いしてしまった、僕は罪深い、そう言ってユンシクはユニの片手を押し頂いたまま突っ伏してしまった。

 

 しばらくユンシクの嗚咽だけが部屋に響いた。ジェシンは何も言ってやれない。ユニの母の悲しみも、辛さも、ユンシクの煩悶も、何もかもジェシンには想像を超えていた。娘のいる場所が分かっているのに、自分たちの事情で会えない苦しみ、自らの意志で手放したわけではないからこそ、焦りと自己嫌悪に苛まれた母親の気持ちなど、しょせんジェシンには分かるわけはないのだ。そのきっかけが公的なものからもたらされた厄災であるのだから、やるせなさは尚更募るだろう。あの時なぜ。何故わが家がこんな目に。そう思いながらも、それから立ち直るのに時間のかかった母としての自分のふがいなさにどれだけ胸を痛めたのか。

 

 「ユンシク・・・聞いてください。私はこれっぽっちもお母様を恨んでなぞおりません。あなたのことも。いつか会えると確信していましたから。」

 

 このお屋敷のお母様はね、とユニは語った。いつも教えてくださっていたのよ。お前はキム家の娘なのだ、と。訳あって・・・ええもう訳は知っているわ・・・ムン家に預かることになったけれど、キム家はお前を手放したかったわけではないのだ、と。病人が二人いることは大変なこと、幼いお前の世話をちゃんとしてやりたいからこそ、お前を私にお預けくださったのです。光栄なことですよ。母親代わりとして私は信頼を貰ったのですから、お前を実の娘のように育てますよ、と。けれど忘れてはなりません。キム・ユニはキム家の娘なのです。お前が生まれるのを待ちわび、生まれたことを喜んだ実の父上母上の嬰児なのです。お前を預かったとき、お前を守った母上様の思いが伝わってきました。傷一つない体に、ようも頑張られたと涙が出ました。お前は健康で、人を恐れない子でした。どれほど可愛がられたのかよくわかりました。

 

 「こちらのお父様もね、時々、もう少しキム家の方々が健康になられたら、お会いできるかどうか尋ねてやろう、と言ってくれていました。ちゃんとこちらのお母様の言うことを聞いて、キム家に戻ったとき、いい娘としてキム家に恥をかかさないようにしなさい、といつもおっしゃってました。お兄様は・・・本当はもう一人お兄様がおられたのよ、亡くなられたのだけど・・・ヨンシンお兄様はただただお優しくて、ジェシンお兄様は・・・いつだって私の味方だったわ。私は優しいこのお屋敷の皆様に、寂しがらないでいいように本当に良くしていただいてきたの。けれど、キム家のことも大事にするように、キム・ユニとして在れるよう、教えても下さったの。恨む?私に二つの家族があるだけなの・・・私は幸せな娘なのよ、ユンシク。あなたの病に苦しんだことの方が申し訳ないわ、私は何もしてやれない姉だったのですもの・・・。」

 

 私の方こそ許してください、そう呟いたユニは、初めて涙を一筋流した。

 

 「会いたいわ。私が煙を吸い込まないように必死に守って下さったお母様に。私がどんなに慈しまれたかをお教えして、安心していただきたいわ。お母さまはお目がお悪いのでしょう?お世話して差し上げたいわ。こちらのお母様も少しお体が弱いの。だから私忙しくなるわね。お母さまはご本は好きかしら。私読んで差し上げたいわ。」

 

 ポカンと顔を上げてユニの話を聞いていたユンシクはまた泣いた。ジェシンは二人をただ見つめて、黙っていることしかできなかった。

 

 

 

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