赦しの鐘 その35 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 父親に呼び戻されたあたりから、ジェシンの成均館生活にはいら立ちが増えた。それは父のせいではない。ジェシンに執拗に絡む、老論の同年の儒生、ハ・インスのせいだった。彼によると、彼の父が大層『懇意』にしてもらい目をかけて『頂いている』、老論の首魁ともいえる左議政のイ家の一人息子が小科をとうとう受けるらしく、

 

 「当然彼は合格するだろう。我ら老論の学堂でも、年齢を飛び越して彼は常に主席だった。神童とすら言われていてね。お前も知っているだろう、ムン・ジェシン。お前がそこそこ学問ができるとしても、彼には敵わないだろうね。ただ俺たちより若年だからね、面倒を見てやるように父に命じられているんだよ。」

 

 「へえ、親子二代揃ってイ家に寄生するという事か。左議政様のところも大変だな。」

 

 「なっ!」

 

 朗々と語っていたインスは鋭い目をさらに吊り上げた。最近絡んでこないと思ったらこの通りだ。一つだけ分かっているのは、おそらくインスは父の過去の大失態を知らないこと。ユニの父を過失で殺してしまった過去を。耳障りのいい事しか、おそらくこのインスは聞かされていない。それは彼の父がたどった出世譚だ。さぞ順調に聞こえるだろう。人を死なせる大失態を金と派閥の伝手で納め、他派閥の罪ない若き官吏を流刑死させることで掴んだ役職なのにもかかわらず。

 

 「せいぜい世話してやれよ。お前のやり方が気に入るような奴なら、俺が話をする価値なんぞどこにもないな。」

 

 「・・・イ・ソンジュン君の方がそう思うだろうよ、ムン・ジェシン・・・。」

 

 「その方が気楽でいい。」

 

 その日はそのままふらりと成均館の門を出た。人の溢れる雲従街に自然に足が向く。雑踏の中の方が何も考えなくて良い気がした。昼過ぎの市は活気にあふれている。ふらふらと店先を見るともなく眺めながら歩いていると、薬種屋の前で見覚えのある道袍姿を認めた。

 

 キム・ユンシクだった。

 

 店の者が相手をしているその後ろに立つと、店の者が目ざとくジェシンを見つけて、いらっしゃいませ、とぺこぺこと頭を下げる。振り向いたユンシクが目を見開いて、あなたは、というので、先日来だな、と簡単に答えて、用事を済ませるように促したのだが、何の薬種を買うつもりなのかがとても気になった。ユンシクの健康状態はかなりいいと父も言っていたし、そこそこの頻度で都と家を行き来している。消して近いわけではないから、それだけの距離を往復できるだけの体力があるとみるべきだろう。

 

 「お母上様のお体にいい薬種をお探しなので、自覚症状をお尋ねしていたのですよ。」

 

 と、ジェシンの顔色を読んで、知り合いだと踏んだ店の者が先回りして答えた。

 

 「お前の母ごはどこかお悪いのか?」

 

 「いえ。目は以前から悪いのですが、最近体の冷えがひどく、食は細いほうなのに、特に足がむくんで辛そうに見えるので・・・。」

 

 「ご夫人にはそれなりのご年齢でよくある血の道の症状でございます。体を中から温め、血の巡りをよくすることが必要でございますね。」

 

 胃や下腹の痛みはないが、用足しの回数は少ない事、肩や背中の凝りに悩まされていることなども付け加わり、医師の診断がないから安全なものから、と食材にも使うショウガを乾燥させたものを勧められていた。薬として煎じるのではなく、日々の食事の時に、一片を細かく砕いてちりばめるか、汁物ならばいっしょに煮込んでしまうと摂取しやすい、と助言までべらべらとしゃべった店の者から紙包を貰い、きょとんとした顔で薬種屋を離れたユンシク。

 

 「以前立ち寄った時はあんなに愛想良くはなかったような・・・。」

 

 と首をかしげているが、それはおそらく自分がユンシクの後ろから離れずに腕を組んで一緒に話を聞いていたからだろう、と納得していた。店の者はジェシンより低いユンシクよりさらに小柄だったのだ。彼から見たら、ジェシンなど熊みたいなものだろう。

 

 首をかしげながら歩いたユンシクは、途中では、と気づき、ジェシンを振り向いた。ジェシンはなんとなくついてきてしまっていたのだ。

 

 「あ・・・。後先になってしまいましたが、先日は本当にありがとうございました!」

 

 透き通った、おそらく声変りをしたばかりだろう、それでも高めの声があまりにもユニの声音に似ていて、ジェシンは何だか泣きそうになった。

 

 

 

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