赦しの鐘 その10 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 ハ・ウジュが父からその日の指揮を取り上げることができたのは、庁の長官である当時の大監と同じ派閥、老論だったからだ。賄賂とおべっかで、彼は少しずつ大監に目をかけられていった。そして一気に自分の名を派閥で響かせようと、大手柄を目論んだのだ。捕縛対象が、老論ではあるが皆から爪弾きされていた嫌われ者だったという理由もあった。何の遠慮もいらなかった。自分の地位にとってかわられるかもしれないと大監が用心していたジェシンの父を蹴落とすつもりもあったようだ。ムン家は老論と対立する小論という派閥に属していたからだ。

 

 この件に関しては、ウジュの全くの誤認と、ウジュを任命した代官の責が声高に叫ばれた。主に小論からだったが、数少ないながらも王宮に戻ってきていた南人の派閥の者が理路整然と抗議を行った。それを何とか抑えていたのが当時はまだ令監だったチェ・ジェゴン、という現王の側近となりつつある現領議政の男だった。彼は南人を代表して事の始末を求め、大監は更迭、ウジュには降格と遺族への賠償を迫った。当然のことだ。全く罪のない家族を崩壊させたのだ。四名の内、一人は殺害され、二人は医師が目を話せない重傷だ。たった一人無傷だった幼い娘が、とりあえずという形でムン家の預かりとなっている。

 

 老論も失態を認めないわけにはいかず、取りまとめたのはイ・ジョンムという現左議政の男だった。ここで処分に明暗が分かれた。失態を認めれば何とか王様に慈悲を願おうというイ・ジョンムに、大監は抵抗した。逆に素直に頭を垂れたのがハ・ウジュだった。彼はその時に完全にイ・ジョンムを頼ることに乗り換えたのだ。言われるがままに位の一つ降格、遺族への賠償を行い、手を尽くしてくれたイ・ジョンムの手足としてまとわりつき始めた。ウジュは目端が利き、腰が軽い。仕事の速さは便利さと同じだ。イ・ジョンムもその仕事ぶりには目をかけ、ウジュは異例なほど早く元の位を取り戻したのだという。

 

 

 「お前の母上がお前を引き取れない理由が分かるだろう。今も母上は目があまり良くない。弟も体が弱いそうだ。二人とも療養が続くし、幼いお前には荷が重い。お前が我が家で健やかに育つことが、母上と亡き父上の望みに適う事だ。のう、ジェシン、お前もよくわかっただろう。どうだ、ヨンシンの件はユニに関係があるか?」

 

 「いいえ、父上。全く別のことです。ユニは迷惑を被った側だ、何を怖がる。父上も母上も俺も・・・兄上だってずっとお前の家族だ。そうですね、父上。」

 

 「共に暮らすという事は、家族になるという事だ。ユニ。お前は多くの喜びを儂たちに与えている。何も心配せずに、皆に甘えてよいのだ。勿論、ヨンシンにも話しかけてやってくれ。ヨンシンはお前に怖がられるなんてことがあれば、大層悲しむだろう。」

 

 「はい。お父様。」

 

 

 

 けれどユニは未だにヨンシンの部屋に一人では入らない。怖いのではなく、お兄様のいた時のままにしておきたい、と言ったことがあり、それは本心なのだろうとは思う。しかし、ユニは何か胸の中に隠していることがあるのではないか、とジェシンは察していた。

 

 ジェシンの自室で、手土産の菓子・・・屋台の揚げ菓子ゆえ大したものではないが、それでも屋敷では食べさせてもらえないその雑貨けない餅菓子を、ユニは喜んで食べた。それを見ながら、部屋の外から、奥様にご挨拶を、とやかましい執事に生返事をしたジェシン。母上に会う前に、とジェシンはユニに聞いた。

 

 「最近、母上の具合はどうだ?」

 

 ジェシンの母はヨンシンを亡くしてから時折寝込むことがあった。それでもユニがいるおかげで、ユニを育てなければ、と心は少々強がっていられたのだろう、寝込み続けることはなかった。けれど、ユニのことを連れ出しに来た親戚の男と応対した後は、少し具合を悪くしたと父から先日聞いていた。その夜は成均館から来たのも帰るのも夜だったので、母を見舞うことはできなかったのだ。

 

 「お母様は床をお上げになりました。でもね、いつもはヨンシンお兄様の月命日あたりにお辛くなるのに、その前に・・・。私が泣いたからかしら・・・。夜お眠りになれなかったのかもしれないわ。」

 

 菓子を食べる手を留めてうつむいたユニの頭を、ジェシンはそっと撫でた。

 

 

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