箱庭 その7 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 ヨンハが書院にやってきてひと月半ほど後、ムン・ジェシンが新たな弟子としてやってきた。あたらしい弟子が来ることは聞かされていて、狭い一室がユニによって綺麗に掃除されるのをヨンハも見ていたが、誰が来るか迄は知らされていなかった。普段から物を置いていない空き部屋なので、風を通し少しはいたり拭いたりすれば掃除などすぐ終わる。俺の部屋もこうやって用意してくださったんだなあ、お姉様、とヨンハがうっとりしている間に装時は終わり、ヨンハは午後からのチェ先生との講義に慌てて向かった。ジェシンがやってきたのはその数日後だった。

 

 不貞腐れた顔で、先生とジェシンの父親が話をしている部屋からユンシクに連れ出されたジェシンを、ヨンハは部屋の前の縁側に仁王立ちになって出迎えた。腕組みをして偉そうに立つヨンハを胡散臭そうに見たジェシンは、不貞腐れた顔から更に嫌そうな顔にその表情を変化させた。

 

 「・・・最近そのうっとうしい顔を見ねえと思ったら、こんなところに流されてたのかよ・・・。」

 

 「うはははは!寂しくって追いかけてきたんだろ!俺の存在の大きさが分かったと見える!」

 

 うるせえ、とばかりにジェシンはヨンハの腰帯を掴んで縁側から引きずり下ろした。ぎゃあ、と声を上げたヨンハをそのまま庭に落とし、どちらの部屋を俺は使わせてもらえる、と知らぬふりでユンシクに聞き、さっさと差された方へ上がっていった。

 

 「お知り合いなんですか?ヨンハ先輩?」

 

 無邪気に驚いた顔をして聴くユンシクに、いてて、と腰をさすりながら立ち上がったヨンハは、うん、と頷いて見せた。

 

 「同じ学堂に通ってた。同じ年だ。あいつも友人がいなくてさあ、俺もだけど。」

 

 ユンシクは首を傾げた。先ほどの態度からして、ムン・ジェシンという若者に友人が少ないのは分かる気がする。ユンシクも初めて会う乱暴さに見えた。けれどしばらくの間一緒に起居しているヨンハに友人が少ないとは思えなかった。人当たりもよく、頭もいい。ユンシクの尊敬すべき先輩儒生となりつつあったのだから。

 

 「俺はさ、表面上はみんなと仲良く喋ってたけどさ、それだけ。み~んな馬鹿みたいに思えてさ、自分の家が、父親がの力が永遠だって思って、それだけで自分は偉いって思ってる奴らばっかりだった。何にもできない、身分が両班だけってことなのに。俺だって親父の金が無きゃただのクソガキだけど、その代わり他の誰よりも学問だけでなく家業だって必死で覚えてた。だけどそんなことしなくてものうのうと生きていけると思っている奴らばっかりだったよ。」

 

 その点、あいつは違った、と顎で部屋の真ん中で胡坐をかいたジェシンを指した。

 

 「自分の父親が力を持っている人で、兄上様が素晴らしい秀才で、それを誇りには思っても、自分は兄上様には敵わないなりに少しでも兄上様のようになりたいと思ってたはずだ。周りもそんな親父様や兄上様のおかげで自分をちやほやするって自覚があったようで、面倒くさいって言いながら、適当に人から離れてた俺となんとなく一緒にいるようになったんだ。結構馬は合ってるんだけど、ちょっと家にご不幸があってさ・・・。人間不信になってたんだ。」

 

 またおいおい教えてもらえ、と言いながら、ヨンハは汚れた足裏を払い、性懲りもなくジェシンの傍へと這い上がっていって小突かれている。

 

 そこへ、ユンシク、と声がかかった。ユニだった。

 

 「門前におられる方にお茶をお出ししたのだけれど、荷をどちらに置けばよいか聞かれたのよ。運んでいただいていいかしら。」

 

 「ユニお姉様っ!呼んでいただいたらお茶ぐらい俺が運んだのにっ!」

 

 「私の仕事ですからよろしいのよ、ヨンハさん。」

 

 そのやり取りを、ジェシンは呆然と眺めていた。まずここに若い娘がいることが驚きなのだ。ヨンハだって大いに驚いた記憶はまだ新しい。

 

 「コロ!こちらの書院で俺たちの飯を塩梅してくださっているキム・ユニお姉様だ。ユンシク君の姉君だ。お姉様っ!こいつは俺の友人のムン・ジェシンです。顔は怖いけど悪い奴じゃないからよろし・・・っ!」

 

 最後まで言えずに、ヨンハは今度は縁側の板の間に転がった。あまりの驚きと、その上耳元でヨンハにぎゃんぎゃん騒がれてカッとしたのだとはのちの弁明だが。

 

 「・・・荷ですね・・・取りに行きます・・・。」

 

 一瞬あった目を見続けることが出来ずに、ジェシンはさっとそらして一息に立ち上がった。

 

 

 

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