箱庭 その6 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 三人の若者たち

 

 最初に雲書院にやってきたのはク・ヨンハだった。ちょうど書院の弟子が一人巣立ったところで、通いで近隣の村に屋敷がある両班の幼い少年が数人、月に数度教えを請いに供に連れられてやってくる程度に落ち着いていた。ユニがチェ・ヨンシル師に呼ばれ、間もなく一人若者を預かることになるだろう、と伝え、布団や部屋の状態の確認、食材の調達の頻度などを考え直していた頃、ヨンハは父親に連れられ、供が荷を馬に乗せてやってきた。

 

 彼の父が師と何を話したのかは知らない。彼がこの書院に居ざるを得ないのは分かり切っていた。話は親との間で決まるのだ。父親のいう事は絶対であるのだから、父親がこの書院に世話になるように命じたら、たった15歳の少年など従うしかない。だから、弟ユンシクが控える縁側に面した扉が開閉する音が聞こえて、ユニは新たな儒生が部屋から出たのを察し、熱い茶を淹れて師の客間へ運んでいった。

 

 失礼いたします、と入っていったユニを見て、父親は目を軽く見張った。その表情を見ても動じもしないチェ師は、ユニを簡単に紹介した。

 

 「現在すでに預かっているキム家の子息の姉に当たる者です。この者たちの父親が儂の弟弟子にあたり、病で亡くなったのを機に姉弟ともに預かっているのですよ。食事の世話はこの者がいたしますのでご安心を。」

 

 「キム・ユニと申します。」

 

 きちんと手をついてあいさつしたユニを眩しそうに眺めた父親は、よろしく頼みます、と丁寧に返してくれた。それを機に部屋を出たので、その後父親が実は、と師に頼みごとをした事をユニは知らない。

 

 我が息子はあの年にして女遊びを覚えておりまして・・・お嬢様に不埒なことをせぬよう、よろしく言い聞かせてください・・・。

 

 と。

 

 そんな話になっているのを知らないユニは、盆を胸に抱いて縁側から庭に下り、まっすぐに厨に向かった。今日から一人増えるのだ、と炊く米の量などを間違えぬよう頭の中で考えながら。すると、姉上!と声がかかった。師の部屋及び儒生たちが学ぶ少し広い部屋がある成廊棟から続く寄宿する儒生たちの部屋が三間ある棟からだった。そこにはユンシクと、今日から書院に起居する若者が立っていた。

 

 「姉上、ク・ヨンハさんです。今部屋を見ていただいていました。」

 

 ユニは軽く会釈して顔を上げた。すると真ん丸に目を瞠ったヨンハとばっちり目が合って驚いた。

 

 「布団などは日に干してありますので今夜からお使いください。あ・・・もしかしてご自分でお持ちになったかしら、それならば部屋から運び出しますけれど。」

 

 とりあえずそう言ったユニに、ヨンハは表情を驚きのまま口を開いた。

 

 「いえ・・・あの・・・布団はひつようであれば届けると言われていて・・・大丈夫です!ああ姉上様が干してくださったありがたい布団を使いますっ!」

 

 その慌てっぷりと大げさな物言いに、まずユンシクが笑った。そしてユニも頬を緩めた。明らかに年下の少年だ、この書院に娘がいたから驚いたのだろう、それこそ幽霊でも見たかのように、とくすくす口に手を当てて笑った。

 

 今まで書院に居たのは大概ユニより年上の儒生だった。科挙を目指し、または学者になるのを目指していて、ユニもほとんど挨拶のみの関係性で居られるほどこの書院は学問に浸かる人たちしかいなかった。確かに薪も割ってくれるし、ユンシクに風呂の沸かし方も教えてくれたから喋る機会はあった。だが皆、ユンシクの姉、というユニの存在の認識でいたと感じていた。気楽ではあったが。

 

 「ありがたいも何も、おそらくお屋敷のものよりは厚みのないものですよ・・・。ユンシク、ご案内を続けてください。私はお供の方にお茶を差し上げて参りますからね。」

 

 「はい、姉上。」

 

 「あああ、姉上様!供のものが馬に色々載せてきておりますから俺がご説明をっ!」

 

 結局ヨンハはそのまま門前までくっついてきて、中に入って腰を下ろすよう勧めるユニに、仕事をさせましょう!と言い張り、馬の背に乗せていた荷を厨に運ばせた。小さな行李だけはヨンハの着替えで、後の菰包みは書院への束脩以外の礼だという事で、米に塩、干し魚だという事で、結局チェ師を呼び出すことになってしまった、大騒ぎの出会いであった。

 

 

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