㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。
ご注意ください。
大体、どうして俺だと分かった、と夜に改めてジェシンが聴くと、そんなの覗いてたからだ!と元気よく答えたヨンハにユンシクも笑った。ユンシクも一緒に覗いていたからだ。
「俺はコロの親父様の顔だって知ってるんだから、ちらりと見えただけですぐに分かったってことだよ!」
夕餉の後、自分の使った椀などの器を洗い、膳にきれいに並べて厨に返すことから始まったジェシンの書院生活。流石にヨンハは慣れてしまって、最初にユンシクから説明を受けたにも関わらず、何をしたらいいかぼうっとしてしまうジェシンを先導して井戸端に行き、一緒に洗ったものだ。
起床、寝床の片付け、洗面身支度の後部屋の清掃、朝餉を頂き器を片付けた後、水汲み、門前の掃き掃除、縁側の拭き掃除を行い、午前中の講義。簡単な昼餉の後午後の講義。その後は講義室の掃除、風呂への水汲み、薪割り、葉が落ちる季節は庭の掃き掃除。夕餉と片付け。風呂焚き。就寝までは自由に自習や読書をして、寝床を述べて一日が終る。その繰り返しだと説明したユンシクに、多少聞かされて覚悟はしていたジェシンだったが、したことのない事ばかりなのでどことなく他人事のように思えていたが、次の日からは全く言われた通りの生活が始まり、慣れるしか仕方がない事を悟った。
「洗濯はまあ・・・チョゴリや単衣なんかは姉が洗濯するときに声を掛けてくれるので、今までの皆さんは頼んでおられましたが、下履きなぞはご自分でされてしましたね・・・。」
無言でうなずくヨンハを見れば、ヨンハもそうしているのだろう。ジェシンだって、下女ではない両班の娘ご、それも一緒に学んでいる者の姉上に当たる人に肌着の洗濯は気恥ずかしい、と思うし、自分でするしかないのだろう、とは分かった。
書院で暮らし始めて数日すれば、それぞれの役割も自然に分担が決まってきた。清掃などは共にするが、例えば巻割りに関してはもっぱらジェシンの仕事となった。これに関しては、まだ細っこい少年であるユンシクにはさせづらいのと、非力で刃物の扱いにへっぴり腰のヨンハが役に立たない、という現実的な理由があった。
「今までどうしてたんだ?」
「半年前までおられた儒生の方が沢山薪割りをしていってくださって、その後は、薪になる木を持って来てくださる村の方が、以前より少し割りやすそうな小ぶりのものにしてくださってたんです、それを姉上が、こう・・・。」
薪割りに使う小ぶりの斧でなく鉈をえい、えい、とユンシクはたたきつけた。
「・・・お前もユニ様にさせてたのかよ・・・。」
「俺がやるとみてられないって、ユニお姉様が真っ青になるんだよ!」
試しにヨンハに斧をもたせてみると、まずよろけたのですぐに取り上げた。ユンシクから取り上げた鉈をもたせて使わせてみると、ユンシクより下手で、まず薪に命中しない。怖いから腰が引けている上に、目をつぶっている、とジェシンはため息をついた。
ジェシンだって薪割りなぞ屋敷では下男の仕事だし、屋敷内では炭を使うから薪を焚きつけること自体を自らしたことはない。だが、こういうのは適性の問題なのか、ヨンハと比べればどうすればいいか、どれぐらいの太さの薪がいいかの予測をつけるのが上手かったし、思った通りに大体の作業が出来た。という事で、薪割りに関してはジェシンが主に請け負うことになった。
「ありがとうございます。本当に助かるわ。」
そう礼を言ってほほ笑むユニを、ジェシンは直視できない。割った薪を小脇に一抱え。それを厨の隅に積む。ユニの言葉にかすかに頷いて、厨を出るしかできないのだ。ヨンハのように、お姉様お姉様と気軽に声を掛けるなんて無理だった。三つ、四つほど年上の美しい娘ご。ジェシンにとってはどうしていいかわからない存在だ。
それでも生活に慣れ、静かで確かな学識を惜しみなく弟子たちに与えようとする儒生生活に慣れ始めてきたとき、もう一人、似たような年頃の若者を預かるかもしれない、という話がチェ・ヨンシル師からもたらされた。講義の終わりに、三人を並べたその前で、問いかけたのだ。
「儂は来るものは拒まず、去る者は追わない。来る者には来るだけの理由があり、それが非礼なものでない限りは受け入れている。ただ、今現在においても、南人である我が書院に、無派閥、小論、と違う派閥の二人を預かっている。もし新たな者を預かるとなれば、今度は老論に属する家の者になる。これは儂が決める事であるから、君たちに意見は聞かぬが、そういう者が来る、という事を肝に銘じておいてほしい。我が書院は派閥闘争の場ではない。知を磨き、生きる力を磨く場であることを。」
そして新たな仲間が来た、と居室で待機していたヨンハとジェシンは驚いたのだ。老論も老論。似通った年齢の自分たちにとっては名を聞かないことなどなかった、老論の首魁が誇る神童、イ・ソンジュンが父親の後ろから歩いてきたのだから。