㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。
ご注意ください。
その年の暮れに、ベイビーちゃんと俺の絵本、『ふたごのうさぎちゃんシリーズ』は絵本部門の新人賞を貰った。俺が代表で表彰式に出たが、勿論作家『ハヌル』のことについては聴かれた。はっはっは~、と豪快に笑って「年上の私に花を持たせてくれましてな!」と言っておいた。それ以上言ったら、おっさんの俺なんか本当はどうでもいいんだけど、という失礼なことは思っていても言えなくなるだろ。ベイビーちゃんについては何も言わないことだけを打ち合わせして臨んだアワードだったが、芸能関係と違って書籍の賞レースは断然地味だ。一緒に来てくれたムン編集者もほっとしていた。
俺にとっては大名行列みたいに、その日は付き添いの人数がいた。ムン編集者だけじゃなくって、この絵本の本当の最初の最初の制作のきっかけになった、ベイビーちゃんの最初の編集者の女性も関係者として、そして児童書の編集部の人も来てくれていた。おかげで俺は場違いなことをせずに済んだし、児童書の方の人からウサギちゃんのキャラクターグッズについての提案も受けた。仕事が広がる予感がして、いい日だった。
誘われて食事に向かった。児童書の編集部の人は式が終るとすぐに社に戻って記事を書くと言っていたので会場で別れたため、三人で居酒屋に向かった。「先生もお呼びしましょうか?」と前編集者の人が言ったが、ベイビーちゃんはちょっと風邪気味だと首をかしげたのはムン編集者だった。
「先生ご病気なの?」
「いや、風邪気味、ってだけで。ただ咳がおさまってないので・・・。」
おいおいよく知ってるな若者よ。毎日看病しましたってか?
「お医者様には?お薬はあるの?」
「熱は結局出なかったんですよ。医者には行きました。咳止め貰って飲み始めてからよく眠れるようになったんで、治りかけですね。」
「咳って夜にひどくなるのよね。」
「体を横にするとダメみたいですね。だから部屋を暖めてベッドヘッドにもたれた状態で寝かせましたよ。」
甲斐甲斐しいのう「甲斐甲斐しいのね」
つい口に出ちまったと思ったら二人で同じことを言っていた。そりゃそう思うよな。ムン編集者は気づいたらしくって真っ赤になっていて面白い。いつも不愛想な面を下げているから、余計に。
「で・・・電話ぐらいなら出ると思いますからっ!」
スマホを操作するムン編集者の耳は先っぽまで赤い。面白え。
「先生!おめでとうございます!」
すぐにスマホを奪い取った前編集者の声が明るい。まだ完全に育児休暇を終えたわけではないらしいが、双子のママで現役会社員としての手記を連載しているこの人は、ベイビーちゃんの最初の担当者にして『オンニ』と慕われる特別な関係らしい。そうかそうかと頷いていると、スマホが俺にも押し付けられた。
『ウラボニ、一人で出席させてごめんなさい。この賞はウラボニの絵の力のおかげだわ。』
かわいらしい声が届いた。何を言う。このキャラを作り出したのは他でもないベイビーちゃんだ。俺は題材を貰って得しただけだ。
「体の調子は?」
『咳だけがしつこくて~。もう少しだけ用心してます。』
それがいいそれがいい、と言って電話を終えた。ベイビーちゃんは忙しかったんだ最近まで。11月に『ユニイ』の新作が発表され、顔出ししないと言っても発刊前の打ち合わせやら修正やらに追われただろうし。毎回やっている初版限定サイン本は、今回冊数を増やされたらしいし。おい、ムン編集者さんや、ベイビーちゃんを働かせすぎるな。
居酒屋の個室に腰を落ち着けて、乾杯をした。酒が旨い。俺は今、人生で一番波に乗ってるかもしれない。全部ベイビーちゃんのおかげだ。だからムン編集者には一言言っておかなくちゃならない。ベイビーちゃんを大事にしなかったら俺がぶっ飛ばすってよ。そうしたら俺の前で二人が何やら話し出したんだ。
「へえ、そうしたら春節の時にご実家に行くつもりになっておられるのね、先生!」
「一月に入ったら先生の弟に連絡を取ることにしてます。まあ、とるというか、会う予定があるというか・・・。」
なんだなんだ、何の話だ?