極秘でおねがいします 閑話の2 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 「ベイビーちゃんもムンさんも、本当の暗闇なんて知らんだろ。」

 

 「本当の暗闇って?」

 

 今回から何冊かの絵本のコンセプトは、非日常が起こった時、というものだ。例えば災害。地震や大雨なんかで大変な思いをすることがここ最近多いのもあり、それを題材にしようというところまでは決まっていたが、俺のベイビーちゃんは早速一冊分ほぼ仕上げてきていた。今から文章の見直しはするそうだが、ラフでどんな感じか分かってもらえるかしら、という事らしい。内容は、風がすごく強い日に電線が切れて、停電になってしまった一晩の話だ。

 

 俺はムンさんやベイビーちゃんよりだいぶ年上だ。俺が子供の頃は、停電はよくあることだった。非常用の照明なんかそこらにはない時代、停電となれば室内どころか街灯もすべて消え、もし天気が悪ければ星空や月の光さえない下町の路地なんか、洞穴みたいに真っ黒の口を開けている。近所がまるで見知らぬ場所になり、建物が覆いかぶさってくるような恐怖。救われるのはそれなりに街中だったため、人の声があることだった。

 

 「貧乏金持ち関係なく停電はよくあったんだ。だが、その時が夜で、たまたま起きてた子どもにとっちゃ、布団にもぐって寝てしまうしか怖さを追っ払う方法なんかなかったよ。どんな小さな音だって耳が拾ってさあ・・・いつもならすぐに寝ちまうのに、そんな日に限って眠れないんだぜ。」

 

 「災害関係なく?」

 

 「関係ない。電力不足だったんだよ。人が膨れ上がって大勢すむようになったら電気だって沢山使うだろ。ソウルは特に人口増加がやばかった。」

 

 「そうなんだ・・・。」

 

 じゃあこのお話は甘すぎるかしら、と首をかしげるベイビーちゃんに、俺は慌てて言った。

 

 「いやいや、今の子が読むんだからそれでいいよ。俺たちよりも暗さの度合いも甘いだろうしね、今の子たちは。俺なんかが、まあ少しは見えるな、みたいな暗さでも、真っ暗!って思うだろうよ。今はどこも明るい。明るすぎる。」

 

 「そうなの。朝日や夕日の光の美しさや、まず太陽が光をくれることのすばらしさも感じてもらいたいの。だから、最後のシーンは朝の空を綺麗にお願いしますね。」

 

 「まかせとけ~ベイビーちゃん!」

 

 大まかには変更しないが、俺が一寸話をした、暗闇の中では耳ざとくなる、という話とかを加えたいとベイビーちゃんがいうものだから、文章自体は書き直して送ってくれることになった。

 

 「でも、ウラボニの言う『本当の暗闇』って、一度体験してみたいような、怖いような・・・。」

 

 「そうだなあ、今じゃ、どこにでも何か電気があるからなあ。山の中ぐらいじゃないかな。」

 

 俺がそう言うと、ベイビーちゃんはムン編集者を振り仰ぐんだ。そう。この二人、二十センチぐらい身長差があるのか、立っていても座っていても、ベイビーちゃんがムンさんを見上げる構図になる。一度描いてやろう。ものすごい少女漫画みたいな構図だぞ。どっちもきれいな顔してるし。

 

 「え?!行きたいのか?」

 

 「怖いけど・・・。」

 

 「俺はキャンプはした事ねえけど・・・ああ、ああ、分かった!季節が良くなったらな、どっか連れてってやるから!」

 

 「ホント?」

 

 「寒い間は無理だぞ!本当に寒いんだぞ冬の山ん中は・・・。」

 

 「どうして知ってるの?冬にキャンプしたんですか?」

 

 「だからキャンプはねえ。ただ、兵役で配属されるところは大体山の中にあるんだ。冬の夜警はなあ・・・もうどうしようもねえぞ、寒くて。だから冬は却下だ。」

 

 そうか、兵役なあ、俺もだいぶ前に行ったが、俺は海沿いの方の配属だった。冬の海辺も寒いぞ、ベイビーちゃん。風邪ひくからやめとけ。ムンさんの言う通りだ。ムンさん、親みたいだな。

 

 「風邪ひくだろ、ダメだ。」

 

 俺の思考が読まれたのかと思ってみたら、額の真ん中を軽く押すムン編集者と押されて顔を赤らめているベイビーちゃん。

 

 

 俺、こいつらモデルに少女漫画家デビュー作でも描いてみるかな、なんて思ったね。

 

 

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